NECの水冷PCを支える「音の見える化」技術:水冷PCが奏でる“快適な音”(3/3 ページ)
2007年に復活を果たしたNECの水冷PC。そこには、2003年から続く連綿たる基礎研究の成果があった。その実態とは?
PCの音を診る“聴診器と心電図”技術
この課題に対して佐々木氏は、まず音を目に見えるようにすることに取り組んだ。目に見えない音というものを可視化することで、開発や検査をより効果的に行おうというものだ。この詳細解析技術によって、PCのどの部分の音圧レベルが高いか、またその音はどこから、どちら向きに発せられているかということを、図示できるようになった。
このような振動音響解析技術は、まさにデータの蓄積のたまものだ。こういったデータの採取には、無響音室で実際にさまざまな角度からPCの騒音を測定することが欠かせない。佐々木氏の振動音響チームではチーム独自の無響音室を持っている。NEC以外のメーカーでもこうした無響音室を持っていることはあるが、その多くはメーカー全体で共有するというケースが多く、開発チーム単独で持っている例は少ないという。
第4世代の水冷システムを搭載するVALUESTAR Wが発する騒音は、動作時でも最大約25デシベル。無響室の騒音レベルが20デシベル程度というから、それに迫る静音性を実現している。この数字を達成できたのは、無響音室に持ち込んで解析された過去の製品のデータベースによるものである。
さらに、これらの技術を発展させ、ライン上の全数検査にこぎつけたのが、「非無響音環境下での異音検査システム」だ。これはPCのボディに加速度センサを取り付け、PCが発する異音だけを拾って解析し、グラフ化したものだ。マイクと違って振動を拾う加速度センサは、周囲の音に影響されない。また、検査プログラムには過去に蓄積した振動音響解析のデータベースを生かすことで、センサがキャッチした振動からより正確に異音のみを取り出すことに成功したのである。
佐々木 「このアイデアは、以前、病院で母親を介護していたときに着想したものです。病院では心臓や血の流れる音を聴診器や心電図を使って計測しますが、我々はもっとハイテクでPCの音を聞くことができるのではないかと考えました。だからこの異音検査システムは、まさにPCの聴診器であり心電図なのです。
加速度センサの取り付け位置をはじめとした測定方法は、個々の機器によって異なってくる。そのため、機器に応じて音の出やすい場所、測定するのに最適な場所は、それぞれあらゆる角度から検証して探し出すという。それによって、実際の生産ラインではセンサを取り付けて約1分で判定が可能となった。また、異音検査システムによる全数検査は、2007年8月から水冷PCのみに対して行われている。酒井氏によると、今後はノートPCをはじめとしたほかのモデルを含め、生産ラインへの全面適用を目指していきたいという。
2008年で発売から5年目を迎えるNECの水冷PC。静音性を向上させた第4世代水冷ユニットを身にまとうことで、従来とは異なる層の開拓に成功したのは間違いないが、水冷PCの開発チームは手綱を緩めることはないようだ。
佐々木 こういった音を扱う技術はまさにアナログの世界。それを目に見える形にしてデジタルのデータとして積み上げられるのがNECの強みです。ようやくそのデータベースが日の目を見つつあります。そして、実際にPCを作る事業部と我々の中央研究所が密接に連動しているのがもうひとつの強みでもあります。このような強みをこれからのPCにも生かしていきたいですね。
酒井 「音」は感性に訴えるぜいたくなものです。聴く人によって快適な音もあれば不快な音もあります。そこでNECでは「快適環境の提供」を合い言葉に、まずは「音」で付加価値を出していきたいですね。AV PCの究極の目標はズバリAV機器ですが、まずは“静音ならNEC”というブランドを作っていきたいと思っています。
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