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MSIのオーバークロック世界大会で“水没PC”とスリリングなゲームに酔う(2/3 ページ)

MSIが全世界規模で開いたオーバークロック大会の世界決勝が北京で行われた。世界トップクラスのオーバークロッカーが見せる“技”と“ガッツ”を紹介しよう。

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Lightningのリミッターを解除せよ

 基板の養生が終わると、自分たちで作り上げたクーラーシステムの取り付けにかかる。すべてのチームが液体窒素を使った冷却を採用しているので、そのクーラーユニットも液体窒素を注ぎ込む円筒型が主流だ。会場では、金属製の筒に厚手のフェルトやスチロール製の断熱材を巻きつけ、それをヒートジャケットに装着してマザーボードやグラフィックスカードに取り付けていた。フェルトや断熱材は、その場でサイズや取り付けネジの場所を測って裁断するなど、意外と細かい手間がかかっている。

 大きくて重量がある金属製円筒型クーラーを取り付けるだけにCPUが安定してCPUソケットに設置できる工夫も必要だ。その目的のために、CPUソケットへワセリンをたっぷりと充填してしまうのも(ソケットの中をワセリンで満たしてしまうほどだった)、オーバークロック大会でないと目にする機会はないだろう。CPUソケットに充填したワセリンをドライヤーで温めて滑らかにして、ピンとピンのあいだにしっかりと流しこんでCPUとの密着度を高めるなど、その作業は徹底している。

ソケットからあふれんばかりにジェルを充填して(写真=左)、ドライヤーで温めて滑らかにしていきわたらせる(写真=右)

電圧リミッターを外す配線パターンをMSIが伝授

 養生に加えてオーバークロッカーが行っていたのが、グラフィックスカードとして配布されたN275GTX Lightningの“改造”だ。MOA 2009の参加者には、N275GTX Lightningに用意されている安定動作のための各種リミッターを無効にする方法を記載されたドキュメントが事前に提供されていて、その情報を利用して自分で開発、もしくは、企業が試作したコントロールユニットを実装することが認められていた。各チームとも、MSIのドキュメントに記されたリミッター外しの配線パターンをチェックして、そのパターンをショートさせたり、チップを除去したりと、実に細かい作業をこなしていた。

MSIから提供された配線パターン情報を基に(写真=左)、自作のディップスイッチを接続して電圧制御に挑むチームも多かった(写真=右)

 競技が始まって1時間ほど過ぎたあたりから、作業が順調なチームはベンチマークテストを走らせ始めていた。ここで、満足いくスコアが出せたら、スコアを表示している画面をキャプチャーしてファイルに保存し、さらに、各チームに配属されたMSI運営スタッフにスコアの値を集計用紙に“手書き”で記録させる。運営スタッフはその集計用紙をスコアセンターに持ち込んで集計スタッフに“手渡し”、集計スタッフはスコアボード制御PCに“手入力”することで、ようやく会場の大画面スクリーンに表示されたスコアボードに結果が表示される。MOA 2009の会場では、意外なことにスニーカーネットワークを駆使したスコア表示システムを採用されていたわけだ。

 そのスコアボードに、各チームがたたき出したスコアがそろってきた。当然、低いスコアを出しているチームはより高い結果を目指して再度ベンチマークテストに挑むわけだが、このとき、せっかく時間と手間をかけて作り上げたマザーボードやグラフィックスカードの養生をはがして、もう一度作業をやり直すチームも少なからずいた。こうなると、始まる前は長すぎると思っていた2時間が、あっという間になくなってしまう。こうして、多くのチームでは養生作業と終了時間の競争になっていった。

競技開始から1時間ほどからスコアボードにランキングが表示され始めた。暫定トップはしばらくの間、Team IOOEだった(写真=左)。ほかのチームのスコアをチェックし、システムの動作が思わしくないチームは、もう一度最初からシステムの組み立てに取りかかる(写真=右)

オーバークロックの戦いに人間のドラマを見た

 各国チームが、wPrime 1024Mの結果をスコアボードに申告していくなか、ベンチマークテストが完走しないばかりか、マシントラブルでまともに起動すらしないチームもいる。その1つが優勝候補で米国から参加している「XtremeSystems」だ。リーダーのチャールズ・ワース氏は、COMPUTEX TAIPEIのPCパーツブースで行われるオーバークロックイベントなどでゲストとして呼ばれるほどの、世界的トップオーバークロッカーとして知られている。しかし、そのワース氏のシステムが、ベンチマークテストのスコアを記録する前に、まったく動かなくなってしまったのだ。

 養生した粘土をすべてはがし、CPUを取り出して接点をアルコールで洗浄し、ソケットのピンに詰まったワセリンを除去していく。それから、またシステムをくみ上げていくが、なかなか起動してくれない。残り時間は30分を切った。

CPUソケット内部のピンをチェックするXtremeSystemsのメンバー(写真)。組みなおしても起動せず頭を抱える(写真=右)

 観戦するみんながあきらめたとき、ワース氏は、再びPCをばらし始めた。「ええっ、リタイヤしないんですか?」と聞くと、たった一言、「ネバー、ギブアップ」と答えた。おおぅ、本場のネバーギブアップを聞いてしまった、とちょっと感動しながら作業を見守る。すると、隣のブースで作業をしていた「Team OIIE」のミッシェル・グラフ氏が、いきなりN275GTX Lightningの基板に半田ごてをあて始めた。彼らは、さっきまでスコアボードのトップにいたのだが、少し前にスウェーデンの「Sweclockers.com」に抜かされていたのだ。ワース氏に刺激されたのか、グラフ氏は、N275GTX LightningのGPU駆動電圧パターンを直接ショートさせて電圧を決め打ちで設定しようとしていた。

 しかし、タイムリミットは刻一刻と迫ってくる。結局、XtremeSyatemsのマシンが動くことも、Team OIIEがトップを奪回することもできず、wPrime 1024Mの戦いはSweclockers.comがトップスコアで終了した。

残り時間を見つめるワース氏(写真=左)。しかし、彼は「Never Give Up」の一言とともに、作業に挑んだ(写真=右)。

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