スキャン代行サービスの現状と内容比較:「スキャン代行サービス」大研究(3/3 ページ)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第1回は、サービスの現状をまとめつつ、各社サービスの内容を比較する。
ページ数は上限を設ける業者と制限なし業者に二極分化
例えばPFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap S1500」は同時セット枚数の上限が50枚=つまり100ページまでなので、ほとんどの書籍は複数回に分けてセットする必要がある。このほか、裁断機にも枚数制限はある
書籍1冊当たりのページ数については、多くの業者で上限となる値を定め、それを超えた場合に追加料金を請求するケースが多い。例えばBOOKSCANは当初「1冊あたり350ページまで、それ以上は対象外」としていたが、その後この制限を撤廃し、標準は350ページまで、それを越えるものは200ページ追加ごとに1冊分という料金体系に変更した。つまり550ページまでの書籍は2冊分、750ページまでの書籍は3冊分という設定だ。
他の業者では、BOOKSCANと同様に350ページ前後にしきい値を設定する場合と、ページ数に制限を設けない場合の二極分化が進んでいる。実作業では、ページ数が一定を超えると裁断およびスキャンの工程が2倍、3倍と増えることから、料金に違いが発生するのは妥当だと考えられるが、ページの厚みの問題もあり、同じページ数でも書籍によって厚みは異なってくる。このあたりを価格体系にどう反映させるかは、業者の考え方次第といえるだろう。
裁断の幅はおよそ1センチ 裁断済み書籍の返却は多くの業者が対応
裁断機を用いた書籍の背部分の裁断幅について、BOOKSCANは「書籍の端から約1センチ程度」としている。これはほぼ完全にのりを落とせる幅だ。ただ、1センチもの幅となると、本文の一部も切り落としてしまう可能性もある。自分で自炊作業を行ったことのある方なら、1センチという幅はちょっと広すぎるのではないか、と感じることもあるだろう。各業者が実質どの程度の幅を切り落としているのかは気になるところだ。
また、カバーの存在しない無線とじの書籍では、表紙の端から1センチ程度切り落としてしまうと、表紙のデザインの一部も欠落してしまう。理想的なのは、表紙だけはフラットベッドスキャナでスキャンするか、もしくは表紙をはがして内側のページだけを裁断し、表紙は個別にカッターなどで切り離してスキャンすることだが、スキャン代行業者がここまでの手間を掛けているとは考えにくい。現実的にどのような仕上がりになるかはチェックポイントだろう。
なお、スキャン完了後の書籍については、多くの業者で「返却」「廃棄」を選べるようになっている。データ化が済んだ書籍は廃棄してほしいという声がある一方、万一読み取られていなかった時のために、手元に置いておきたいという声もある。これは利用者によってさまざまだろう。
一方、業者からすると、廃棄には費用が掛かる上、裁断済み書籍をオークションに出品しているのではないかという疑惑をかけられないためにも、利用者に返却するメリットは大きい。しかしその一方で、単純に返送コストが掛かるといった問題のほか、裁断ミスなどが利用者に発覚する可能性もあり、痛し痒しだと言える。
「ファイル名変更」「OCR処理」はオプション データ受け渡し方法は千差万別
読み取り後のファイル名の変更、およびOCR処理については、多くの業者でオプション扱いになっている。前者はバッチ処理によって短時間で処理できそうだが、後者はOCRをオンにすることで読み取り時間が増大する。基本部分のサービスを低価格で提供するためには、別料金設定になっているのは妥当といえるだろう。一方、基本サービス料金を高めに設定し、これらの処理をすべて込みで提供している例も見られる。
データの受け渡し方法については、オンラインでの受け渡しが基本だが、DVD-RやUSBメモリでの提供を行っている業者もある。DVD-Rは無償の場合もあれば有償の場合もあり、さまざまだ。このほか、レンタル用のHDDハードディスクを採用しているケースや、メール添付、Dropboxなどストレージサービスを利用している例も見られる。1冊の書籍をカラーモードでデータ化した場合、1冊当たりのデータ量は100Mバイト近くになることも珍しくないため、注文数にも大きく左右されると考えられる。
次回は実際に発注してサービス内容や仕上がりを比較
以上、スキャン代行サービスの現状を見てきたが、細かい対応や仕上がり具合についてはやはり実際に試してみなければ分からない点が多いのも事実だ。そこで次回は、実際に何社かのスキャン代行業者に発注し、その対応や成果物の仕上がりについて検証する。
編集部注:
スキャン代行サービスは、著作権法30条1項にある「その使用する者が複製することができる」という内容から、現状ではほとんどのケースで著作権侵害のリスクを有していることを付け加えておきます。BOOKSCANのページなども参照ください。連載では、著作権法あるいは立法の観点からみたスキャン代行サービスについても取り上げます。
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