「このメーカー、同じような製品出しすぎ?」の裏で起きている争い:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
PC周辺機器やアクセサリでは、同じメーカーなのに明らかにターゲット層がかぶる2つの製品ラインアップが存在することが多い。その裏には、さまざまな要因が潜んでいる。
2つの製品で供給をカバーする方法も。ただし在庫の問題はつきまとう
これとはまったく別の理由で、同一メーカーで同等スペックの製品を共存させざるを得ない場合もある。それは、1つの製品だけでは供給量が確保できないので、同等製品を2つ合わせて必要な数量をカバーするというケースだ。
台湾などの外注先はそれほど規模が大きいわけではないので、どこかの量販店で定番に入って想定外の量のオーダーが来た場合、現地工場での生産が追いつかなくなることがある。5年、10年といった長いスパンでオーダーが確定しているのならまだしも、製品の移り変わりが激しいPC周辺機器やアクセサリの業界では、そのようなことはまず起こりえない。それゆえ生産ラインを増やすのではなく、「月に最大でこれだけしか製造できません」と宣言し、そのキャパシティの範囲内でやりくりすることになる。
もちろんメーカー側は尻を叩いて増産をかけようとするわけだが、やりすぎると製品の品質を落としたり、同じ外注先で作っているほかの製品の生産に支障をきたす危険が出てくる。何より、あまりにも1社に生産が集中してしまうと、倒産など万一の場合のリスクが高い。
ではどうするかというと、同等セグメントの製品を別の外注先から仕入れ、うまく供給を振り分けることになる。仮に製品A、製品Bとすると、ある量販店では製品Aを定番に、別の量販店では製品Bを定番に、といった具合に振り分けるのだ。長期的に廃盤が許されないカタログ通販系には取引関係が良好な外注先の製品Aを割り当て、それ以外には製品Bを割り当てるといったパターンもある。もちろん量販店や取引先は、こうしてメーカー側が振り分けを行っている事実は知らない。営業マンによる口八丁手八丁というわけだ。
実際のところ、よほどネットなどで評判になっている製品でもない限り、こうした売り方で支障が出ることはない。PC周辺機器を購入する客の中には、デザインにこだわりはなく、機能さえ実装されていれば支障はない、というケースが多数存在するからだ。特に法人ユースでは、要求仕様書によってスペックだけが定められていて、外見は二の次ということが大半なので、要求仕様書に書かれたスペックを下回らない限り、問題になることはない。
また、2つのラインアップを持っておけば、一方に不良が出たり供給が不安定になった場合に代替できるので、外注先の財務状況がいまいちで信用度が高くない場合のリスクヘッジにもなる。「1つの製品でまかなったほうがいいのに」という考え方は自社で工場を持つメーカーの製品であれば通用するが、外注先との契約の範囲でしか生産できないPC周辺機器やアクセサリのメーカーにおいては通用しないのだ。
もっとも現実的には、あまりラインアップが増え過ぎると決算時期に在庫過多が問題になり、「ラインアップを絞るべし」と経営陣から指令が出ることも多い。その意向を受けて一方を廃盤にしてラインアップを絞ったところ、生産が追いつかなくなりクレーム→再びラインアップを増やす→また在庫過多に→またラインアップを減らす、といったサイクルが果てしなく繰り返され、じわじわと競合他社の侵食を許すことになる。
一定の会社規模を保ったままなかなか事業を拡大しないPC周辺機器やアクセサリのメーカーが多いのは、リスクを無視して一発当てない限り、こうした業態においては事業規模を拡大しようがない、というのが最大の理由だったりするのだ。
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