とあるiPhoneアクセサリが開発中止に追い込まれた事情:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)
資金調達に成功しながら、開発中止となったCerevoの巻き尺付きiPhoneケース。この一件は、国内サードパーティ各社が悩んでいる「ある問題」と共通項がみられる。
資金調達に成功しながら1年後に開発中止
ユニークな巻き尺付きiPhoneケース「iConvex」の開発が中止となった。ベンチャー企業のCerevoが、クラウドファンディングで資金を調達することにより量産化を目指していた製品だ。すでに目標金額である100万円の調達には成功しており、プロジェクトそのものは成立済みであるにもかかわらず、途中断念するという異例の展開である。
同社のブログによると、中止の理由としては「大幅な期間超過」「必要な第三者機関による認証取得遅れ」「iPhoneの接続端子規格変更」などが要因として挙げられている。
この製品がクラウドファンディングサービス「Cerevo DASH」上でパトロンを募り始めたのは2012年3月であり、すでに1年以上が経過した。開発からスタートする以上、ある程度待たされることは入札したパトロンも納得済みだったはずだが、これ以上延びると次期iPhoneのモデルチェンジの段階で設計を再度やり直さざるを得なくなる可能性が高く、そうなるとさらに延期になるわけで、理由としては確かに妥当なように聞こえる。
もっとも、ふに落ちないところもいくつかある。そもそもプロジェクトが成立したのは「iPhone 5」の発表前であり、ケース自体は「iPhone 4」と「iPhone 4S」を前提とした仕様だった。その時点から開発をスタートすれば、iPhoneの製品サイクルを考慮しても、半年後に形状を変更せざるを得なくなることは十分に予想できたはずだ。
実際にはiPhone 5の発売直後に、iConvexはiPhone 4/4S用でありiPhone 5では利用できないとのアナウンスがなされているほか、2012年末にはiPhone 5のユーザーに返金対応する旨も告知されていた。
またボディはもとより、Dockコネクタがモデルチェンジすることも、その春先からサードパーティメーカーの間ではうわさになっていた。そうでなくとも以前からAppleが欧州におけるケーブル規格共通化の会合に参加している動きを見れば、結果的にLightningという独自規格だったことが予想できたかどうかは別にして(当初はMicro USBではないかとの説もあった)、形状が変更になること自体は予測できたはずだ。
では、一体何が開発中止という結果を招いたのか。筆者は本件について同社の内部事情を知る立場にいないが、その他のサードパーティメーカーもが一様に頭を悩ませる、昨今のAppleのとある対応が、その一因だったとみる。それは、MFiと呼ばれる認証プログラム「Made for iPhone」の取得にかかるスケジュールが、Dockコネクタの頃とLightningコネクタの現在とでは格段に差が付いていることだ。
模造品を使えなくできるLightningコネクタ
iPhone 5で初めて採用されたLightningコネクタは、コンパクトなため本体の薄型化に寄与するほか、表裏がないことから差し込みやすいことがメリットとして知られている。もっとも、もう1つの顔として、模倣品を排除するためのチップを内蔵していることも徐々に知られるようになりつつある。
チップの働きは至ってシンプルなものだと言われている。純正品であれば通電し、そうでなければ通電しない、というものだ。部品的にそっくりなコネクタを作っても、このチップがなければ通電ができない。ただ、これだけであれば、昨今のプリンタのインクカートリッジにも似たような仕組みが搭載されており、特別珍しいものではない。電気信号を同じように入出力する模造チップを作って埋め込めば、確かにその時点では通電できる可能性がある。
しかしながらこのチップの特徴は、OS、つまりiOSがマイナーバージョンアップする度に通電の仕組みを書き換えられることだ。つまり模造チップがはびこってきたタイミングでiOSをバージョンアップしてやれば、純正品およびMFiの認証を取得していない模造チップ入りの製品は一切通電できなくなる(もちろん、バージョンアップごとに書き換わるとは限らない。あくまで時期を見計らってということである)。
最近では徐々にこの事実が公になってきて、模造チップを使用した製品は「OSをバージョンアップすると使用できなくなります」などと注釈が書かれるようになってきた。
こうした事実(うわさも含むが)を列挙すると、Appleに対して反感を持つ人もいるかもしれないが、これまで模造品に悩まされてきた同社の気持ちも理解できる。純正でないDockケーブルを使ってiPhone本体が破損した場合、多くのユーザーはケーブルのせいだとは考えず、iPhone本体に何らかの要因があると考える。実際はそうでなかったとしても、調査には膨大な手間がかかるし、こうしたケースにおいては本体メーカー側に極めて不利な裁定を下す国もある。
そうしたことから、コネクタの形状そのものを進化させるにあたって、こうした模造品対策のギミックを組み込もうとしたのは、確かに理にかなっている。むしろ模造品対策が必要だったことから、Dockコネクタを廃止してLightningにかじを切ったと考えることもできる。またそれは、同社が欧州でさんざん叩かれながらも、Micro USBの採用を見送った理由の1つとみるのが自然だ。
MFiを通過しないと生産できない
さて、こうして登場したLightningコネクタだが、1つ問題があったのは、この認証プログラム「Made for iPhone」がパンクし、申し込みをすぐにさばけない状況に陥ってしまったことだ。
本当にリソースが足りずにパンクしたのか、それとも意図的に行われたことかは定かではないが、Appleの純正品すら品薄だったことも考えると、前述のチップの生産能力がそちらに振り分けられ、サードパーティに割り当てる余裕がなかったとみるべきだろう。いずれにせよ、大手のサードパーティが正規ルートで申し込んでも順番待ちで、そのまま何カ月も音沙汰がないというのは、これまでの状況を考えると異常である。
こうした状況下において、2012年暮れから2013年頭にかけてサードパーティが取った対応は大きく分けて3通りあった。
1つはじっと待つこと。国内の大手サードパーティのほとんどがこれで、要するにMFiの認証を取得した互換品が出るまでは一切製品を発売しないという選択だ。事情を知らない販売店からは早く互換品を投入するよう脅しに近いプレッシャーをかけられるケースも現場では多々発生していたようだが、そうはいってもどうしようもない。ただ、うっかり発売を予告していたりすると延期の繰り返しとなって、メーカーに責任があるようにみられてしまうわけでたちが悪い。
2つ目のパターンは、前述のような模造チップを使った製品を仕入れて売ること。OSのバージョンアップとともに使えなくなるリスクも高いものの、市場に製品が枯渇している状況下では、売り逃げでも相応の利益が稼げる。大手がやると問題になるのは確実だが、小規模なサードパーティのいくつかは、このやり方で売上を稼いでいた(今なお継続中のメーカーもある)。
もっとも、2013年に入ってMFi取得済みの互換品が大手サードパーティから出回り始めたことと、こうした模造品がOSのバージョンアップで使えなくなるらしいといううわさが広まりだしてからは、徐々に縮小に向かいつつある。
3つ目のパターンは、海外でいち早くMFiを通過した互換品を仕入れてそのまま売るというパターンだ。これならまったく問題がない互換品を、国内の大手サードパーティを出し抜いて売ることができるわけだが、実際には虎の子の互換品を他社に卸すほど十分な数を確保しているサードパーティは海外にもなく、またこの場合もAppleに申請が必要になることで、結果的には画餅で終わってしまったようである。
とはいえ、正規のルートでの申請よりもこちらのほうが早い可能性があったというのは、それだけ異常事態だった証とも言える。
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