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「ビジネスインクジェット」は家庭向けプリンタと何が違うのか?SOHO/中小企業に効く「ビジネスインクジェット」の選び方(第1回)(2/2 ページ)

ページプリンタに比べて低価格で省電力などの利点が評価され、近年法人でのシェアを伸ばしつつあるのがビジネスインクジェットプリンタだ。その選び方を紹介する本連載の第1回目は、製品選びの基本ポイントをチェックしていく。

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用紙の追加やインク交換の手間を減らすための数々の工夫

冒頭で紹介したエプソンのPX-M7050Fは、前面の用紙カセットと手差しトレイ、背面トレイに加えて、3段の用紙カセット(オプション)を増設することで、最大1831枚の6Way給紙に対応する。このように家庭向けインクジェットとは給紙容量が大きく違う

 また、家庭用のインクジェットと大きく異なるのが、同時にセット可能な用紙の枚数だ。ビジネスインクジェットは家庭用のインクジェットプリンタと比べて利用頻度が高いため、数十枚単位の用紙しかセットできないようでは、一日に何度も用紙の補給が必要になってしまう。

 それゆえ、ローエンドの製品を除けば、大抵は250枚以上、多い製品になると2段カセットの合計で500枚程度を一度にセットできる。上位の製品になると、オプションの給紙カセットをさらに追加し、1000枚単位でセットすることも可能だ。

 用紙サイズについては、A4が標準という点においては両者の違いはないが、ビジネスインクジェットではA3もしくはA3ノビに対応している製品も多い。家庭用のインクジェットでは、一部の大判フォトプリンタを除き、A3対応はあっても、A3ノビに対応する製品はほぼ皆無だけに、出力可能サイズで製品を選んでいくと、ビジネスインクジェットにたどり着くケースは多いだろう。

キヤノンのA4インクジェット複合機「MAXIFY MB5030」。大容量インクの採用により、家庭向けインクジェットより低ランニングコストを実現し、インク交換の頻度も減らしている。インクコスト(税別)は、大容量インクタンク使用時でモノクロ約1.8円/カラー約6.1円、標準インクタンク使用時でモノクロ約2.2円/カラー約7.6円だ

 これに関連して、大容量のインクタンクに対応している製品が多いのも、ビジネスインクジェットの特徴だ。日々多くの枚数を印刷するとなると、インクの消費が激しいのは当然であり、それに応じたサイズのインクが用意されているというわけだ。

 家庭用のインクジェットを業務で使おうとすると、頻繁にインク切れが発生してカートリッジの交換が必要になりがちだが、大容量タンクを搭載し、交換なしで数千枚もの印刷が可能なビジネスインクジェットでは、カートリッジ交換のために作業が中断させられる機会も少ない。

 このように、多くの用紙を同時にセットでき、かつ大容量のインクタンクを搭載していることもあり、ビジネスインクジェットのボディサイズは、家庭用のインクジェットに比べるとやや大柄で、重量も重い傾向にある。ここまで見てきたような特徴があることを考えると、これは納得だろう。とはいえ、家庭用のインクジェットと数値上の値を比較すると目立つというだけで、ページプリンタと比較すると省スペースの製品は多い。

耐久性はページプリンタ並の機種も

 もうひとつ、本体の耐久性についても、ビジネスインクジェットと家庭向けインクジェットとでは大きな差がある。標準的な家庭向けインクジェットの耐久性は、枚数ベースに換算すると1万〜2万枚程度と言われている(通常、家庭向けインクジェットの耐久性はメーカー非公開とされている)。1万枚と聞いてもなかなかピンと来ないが、500枚のコピー用紙の束が20梱包(こんぽう)だと考えると、そう長寿命ではないことが分かる。

 その点、もともとページプリンタを意識して設計されているビジネスインクジェットは、多くの機種が数万枚の耐久性をうたっており、ビジネスユースで毎日一定量の枚数を印刷するのに向いている。中にはエプソンの「PX-M7050F」「PX-S7050」のように30万枚という、ページプリンタに匹敵する高耐久の製品も登場してきているほどだ。

スマートデバイス連携、ネットワーク対応など、機能面の違いも

ビジネスインクジェット複合機では、レーザー/LED複合機のようにADFを備えた製品も多い。写真はブラザーのA3対応モデル「MFC-J6970CDW」。最大35枚まで給紙できるADFを搭載し、2本のCISスキャナにより両面同時スキャンも可能だ

 機能に目を向けると、スキャナやコピー、FAX機能までを盛り込んだ多機能モデルと、プリンタ機能だけに絞った単機能モデルの2つのラインアップが用意されていることは、家庭用のインクジェットも、ビジネスインクジェットも変わりない。

 用紙サイズについては上で述べたようにA3/A3ノビ対応の有無という点で若干違いはあるが、前面から給紙して前面に排出されるという構造(前面給排紙機構)などは基本的には変わらず、どちらもよく似た外観を有している。ただし、ビジネスインクジェットではADFを搭載し、まとまった文書のスキャンやコピーに配慮した製品が多い。

 機能面でやや異なるのが、スマートフォンやタブレットなど、スマートデバイス向けの対応だ。スマホの急速な普及に伴い、PCを所有していない家庭も増えている現状から、家庭用のインクジェットプリンタは積極的にスマホへの対応を進めており、むしろスマホで利用することを主眼に据えた製品も登場しつつある。もはや「PCの周辺機器」という位置付けではなくなりつつある印象を受けるほどだ。

スマホ対応は家庭向けプリンタほど積極的ではないが、徐々に進んでいる。写真はブラザーの専用アプリ「Brother iPrint&Scan」。前述したMFC-J6970CDWなど対応機種と組み合わせることで、スマホ/タブレットからワイヤレスでプリントやスキャンが行える。NFC内蔵スマホ/タブレットであれば、本体の操作パネルにタッチするだけで接続が完了する

 これに対してビジネスインクジェットは、基本的にオフィスのPCと組み合わせて使用することが前提となっており、スマホ対応は家庭向けほど積極的とは言えない。

 昨今はオフィスでもスマホやタブレットの利用が増えつつあり、ビジネスインクジェットでも今後それらスマートデバイスでの利用を見据えた機能が強化されていくのは間違いないが、家庭用インクジェットのように大きくスマホにシフトすることは、現状ではやや考えにくい(それでもページプリンタよりはスマートデバイス対応が先行しているが)。

 一方、複数名での共有を見据えたネットワーク接続機能は、ビジネスインクジェットが大きく先行しており、有線LAN、無線LAN、USBと3つのインタフェースを備える製品も珍しくない。家庭用のインクジェットは、最近ではスマホ対応に絡んで無線LANを搭載する製品が増えているが、有線LANに接続するためのRJ45ポートを標準搭載した製品は一部に限られる。

 ビジネスインクジェットでネットワークに対応していないのはローエンドの一部のモデルだけなので、家庭用との大きな違いと言える。ターゲットユーザー層を考えると当然だが、この辺りの傾向は、ビジネス用途を中心とするページプリンタにむしろ近い。


 以上、ビジネスインクジェットと家庭向けインクジェット、2つのプリンタにおける違いを紹介した。次回はこのビジネスインクジェットをページプリンタとどう使い分けるべきなのかを見ていきたい。

一般的なビジネスインクジェットと家庭向けインクジェットの違い
利用シーン ビジネス向け製品 家庭向け製品
インク 4色(顔料が中心) 4〜6色(カラーは染料が中心、黒は顔料も多い)
普通紙への印刷品質 ○(高品質) △(顔料インクでは高品質)
専用紙への写真印刷品質 −(写真用紙の対応機種が少ない) ○(高品質)
普通紙への印刷コスト ○(大容量インク採用ならより低い) △(ビジネス向けより高め)
給紙容量 ○(250〜1000枚程度) △(100枚程度)
複合機のADF対応 ○(多くの製品で対応) △(一部製品で対応)
耐久性 ○(5万〜30万枚程度) △(1万〜2万枚程度)
スマートデバイス対応 △(家庭向けより遅れている) ○(各メーカーが積極的に対応)
ネットワーク対応 ○(有線LAN搭載機が多い) △(無線LANが中心)
表は一般的な製品の傾向を示したもので、製品によっては当てはまらない場合もある


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