「なぜ、この製品をこうしないのか」 メーカーがあなたの要望を聞かないワケ:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
製品に対する意見や要望をメーカーに伝える際、その表現や伝達ツールの選び方が間違っていると、せっかくの伝えようとする努力も無に帰してしまう。今回はこうした、メーカーに対する効果的な要望の出し方について、あらためて考えてみたい。
中の人に働きかけて優先順位を上げてもらうには?
であれば、ユーザーとして要望を伝えるにあたっては、既にメーカーとしてもそのことを把握していることを前提に、「いかに優先順位を上げて対応してもらえるか」に重点を置いたほうがよい。
具体的に言うと、現行製品の仕様に疑問を持っている社内の人が企画会議などに出席する際に「前回の製品ではこういう意見がこれだけ寄せられました。よって次の製品では取り入れるべきです」と意見を述べやすくしてやるのだ。前回は具体的な裏付けがなくボツになったが、「これを見てください、私の予想を裏付ける意見がユーザーから寄せられました」というわけである。
この際、最も効果的なのは多数の票、つまり「同じ意見が多くの人から寄せられていること」なのだが、本稿は少数意見を多数意見に誤認させることや炎上させることを推奨しているわけではないので、ここでは言及しない。
代わっておすすめするのは、意見の表明にあたって「なるべく引用されやすいツール」を選ぶというテクニックだ。ネットで自分の意見を述べるツールはさまざまだが、例えばTwitterはまとめサービスでも使わない限り、発言があっという間に流れてしまい、意見として引用するのは難しい。個人のFacebookは検索性の問題で目に止まりにくいし、個人運営のブログは読者数に難がある。
この場合のベターなツールとして挙げられるのは、メーカーのFacebookページや、広報が運営しているブログのコメント欄、あるいは著名な通販サイトや価格比較サイトにおけるレビュー欄だ。
これらであれば、あっという間に押し流されて読めなくなってしまうこともなく、メーカー関係者が目にしている可能性も高い。もし、ユーザーと同様にその機能が必要だと感じている中の人の目に止まり、そのまま印刷して「ユーザーの要望例」として企画資料に添付でもしてもらえれば、たった1人の意見であっても、最大の効果が得られる可能性が高いわけだ。
またこれらのツールのもう1つの利点として、社内で稟議を承認する上長クラスの目にも留まりやすいことが挙げられる。つまり「市場からこんな要望が出ています」と稟議が上がってきた際、上長がそうした声があることを既に知っていて「ああ、俺もそれは目にしたことがある」となれば、話が早い。もし上司が「俺はそんな意見は目にしたことはないけどな」となると、そこでまた意見の正当性を立証するプロセスが必要になってしまう。前述のようなツールを使えば、それを回避しやすくなるのだ。
ちなみにメーカーによってはこれ以外にも、Webサイトに設けられたご意見投書欄のデータを全社員が閲覧できるシステムになっていたり、またコールセンターへの入電はCRM(顧客管理システム)を通じて製品担当者が見られたりと、社内に意見を伝達する役割を持ったツールが存在している。
ただし、これらの利用状況はメーカーによって差があるため、やはり前述のようなツールを使うのが効果的であると言ってよいだろう。
「月に何台くらい売れるはず」という知ったかぶりの一言は厳禁
ところで、ユーザーが意見を伝える際に気を付けたいのは、意見に少しでも説得力を持たせようとして「こうすれば月に何千台くらいは売れるんじゃないでしょうか」あるいは「あの製品よりも売れるのは確実です」など、数量にまつわる無用な予想を付け加えてしまうことだ。
メーカーは新製品の発売にあたり、過去の同種製品の販売数から導き出された綿密は販売予想を立て、それに基づいて調達を行っている、いわばプロである。外野にいる素人がその予測を上回れるほど世の中は甘くないし、仮に当たることがあったとしても、それは偶然にすぎない。
それゆえ、ユーザーがしたためた文の中に「月に何台くらい売れるはず」という一言があるだけで、メーカーの中の人は興ざめになりがちだ。あくまでもユーザー視点でこうした機能があれば少なくとも自分は買うとか、うちの家族はあると喜びますとか、プレーンな感想にとどめておいたほうがよい。そのほうがメーカーとしても意見を受け止めて動きやすくなるというものだ。
間違っても月1万台は売れるはずとか、母数すら知らないのに知ったかぶりでコメントすると、「お前らに何が分かるんだ」と、意見ごとスルーされる原因になりかねない。意外と多いケースなので、メーカーに意見する際のNG事項として、留意しておきたい。
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