韓国で、電車の乗客から妊婦に席を譲ってもらおうと試験的に実施されたキャンペーンが注目を集めている。
妊婦が優先席に近づくとランプが点灯
「Pink Light Campaign」は、妊婦に周囲の乗客が配慮しやすい環境を作るための取り組みとして、5日間にわたって釜山市で実施されたもの。期間中、500人の妊婦にバッジ式の専用デバイスが配布された。
バッジ式のデバイスはカバンなどに簡単に取り付けられる。デバイスを携帯した妊婦が優先席近くに来ると、席の横に設置されたピンクのランプが点灯して乗客に知らせてくれる。
妊婦からすればまったく知らない人に「席を譲ってほしい」と頼むのはためらわれる一方で、譲る人からすれば妊娠初期の段階だとお腹が膨らんでおらず、妊婦だと判別できないこともある。ピンクのランプが点灯すれば、こうしたやり取りをしなくても自然に周囲の人が気付くことができ、席を譲りやすい。
韓国では出生率の低さが年々深刻化している。2016年6月には韓国メディアの亜洲経済が、「新入生が一人もいない小学校が93校もあった」と報じたばかり。全国の小学校のうち新入生が10人未満だった学校も全体の5分の1を上回っている。
そのため、韓国政府にとって少子化対策は急務。特に妊婦や子連れの女性に対する優遇的な取り組みが続けられている。
釜山市では、地下鉄は朝と夕方のピーク時に2時間ずつ女性専用車両を設置し、ピンク色で統一された妊婦向けの座席もあり分かりやすくしている。こうした取り組みを、今後は電車以外の交通機関にも広げていく考えを示している。
釜山市長は、「今回の取り組みは、妊婦の方への配慮につながると思っている。交通機関を含む公共の場をもっと使いやすいものにしていく」とコメントしている。
韓国のママへの寛容的な姿勢も支えに
だが、このキャンペーンは妊婦に対する周囲の理解があってこそ成り立つものだともいえる。
というのも、日本にも「Pink Light Campaign」に似た「マタニティーマーク」があるが、それが逆効果となってしまったケースが起きているのだ。「マタニティーマークをつけていた女性が故意に足をかけられた、お腹を殴られた」……ネット上ではそんな話も散見される。
もちろんこうした事件は心ない一部の人によって引き起こされるものだと思うが、こうしたことがきっかけでマタニティーマークをつけない女性が増えるなど、不寛容さが生む「マタニティーマーク問題」は新たな社会問題となりつつある。
韓国では妊婦に対する配慮はどうか――。現地在住のライターで子育て中の原美和子さんに話を聞くと、韓国の人びとは妊婦や子連れの方に対して寛容であると感じるという。
「私自身、妊娠中に席を譲られたことが何度もあります。子どもの迎えで毎日地下鉄やバスが混雑する時間帯に重なってしまいましたが、よく(子連れということで)声をかけてくれたり、荷物を持ってくれたり、席を譲ってくれたりと本当に助かりました」
また、今回のPink Light Campaignについては、「自分自身が妊娠中や子連れの外出時に助けられてきたので、こうした動きはさらに世間での意識向上にもつながり、良いことだと思います」とのこと。
日本にももちろん、マタニティーマークをつけることでまわりに助けられた人もいるだろう。ただ、原さんのまわりの日本人ママ友達の間でも、「日本のほうが育児がしにくい」や「まわりの目線が厳しい」などの印象を持つ人は少なくないようだ。
国の出生率を上昇していくためには、今回の「Pink Light Campaign」や日本のマタニティーマークなど環境を改善するための試みが進められる一方で、妊婦やママに対する「理解」が浸透することも不可欠といえるだろう。
ライター
執筆:赤江龍介、編集:岡徳之(Livit Tokyo)
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