反則スレスレの手口で店舗に新製品をねじ込むメーカー営業マン:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
店頭に製品を並べたのに売れないならまだしも、店舗に製品を導入することさえできなければ、それはメーカーの営業マンの責任だ。そのため、会社に対して責任を果たしたことをアピールするため、あの手この手を使って店舗に製品を送り込もうとする。
店頭に並ばず送り返されても構わない、その理由とは?
上記は店舗側に自発的に注文してもらうパターンだが、これとは正反対の方法も存在する。つまり、店舗から発注を受けずに、メーカーの側から一方的に製品を送りつけてしまうパターンである。
もっとも、承諾なく製品を送りつけたとなると、取引停止などシャレにならない事態に発展しかねないので、「誤発送」を装って行われることがほとんどだ。「他の店舗から受けた注文分をうっかり誤送してしまった」もしくは「注文書の数量を一桁間違えてしまった」という理由を挙げて謝罪し、「追って引き取りに伺いますのでしばらくバックヤードで保管しておいていただけますか」という形で、一時的なストックを促す。
この方法は先の手口と異なり、店頭に製品が陳列されることはなく、荷解きすらされずにそのまま引き取られることも多い。つまり送料や手間のぶんマイナスになるわけだが、にもかかわらずなぜ行われるかというと、冒頭でも述べたように、営業マンにとってはその店舗に対して伝票上で出荷実績を作れば、それで目的を果たせてしまうからだ。
中でもよく用いられるのが、末日で出荷し、翌月1日に店舗に到着するという手口だ。仮にメーカーが8月31日付で製品を発送し、販売店が9月1日付で検収した場合、メーカーにとっての売上は8月に立ち、販売店の仕入れは9月分扱いとなる。こうした出荷と検収のズレは業界を問わず至るところで発生しているが、月をずらすと、たとえ店舗からすぐに返品されても、出荷実績だけ見ると8月にはいったん数字が上がったことになる。
もしこれが同じ月内に返品を受けるとプラスマイナスゼロになるが、月をまたいだ返品であれば、さも1カ月間は店頭に陳列し、売れないことが分かったので返品を受けた……というふうに(月次の出荷実績表では)見えてしまうのだ。
実際には店頭に並ばずバックヤードに放置されていただけなのだが、店舗に製品を送り込むのがメーカーの営業マンの目的であれば、この方法で最低限のノルマがクリアできてしまう。製品を回収するタイミングを粘って10月1日以降まで引き伸ばせば、見た目は2カ月間陳列してもらったように見えるので、さらに効果は大きくなる。
また、家電量販店のバイヤーの中には、店舗に対する連絡を小まめに行わないズボラな人も少なくなく、その場合はメーカーにとってつけ込む隙がある。というのも、そうした店舗は、自分達が注文していない在庫が届いた際、「きっとまたバイヤーが連絡もなく商談をまとめたのだろう」と勝手に誤解し、店頭に陳列するという癖が付いてしまっているので、無許可で製品を送りつけてもうやむやにできる可能性が高いからだ。
後から発覚しても「荷解きして陳列しちゃったのであれば、せめて半分だけでもそのまま置いてもらえませんか」などと、交渉できる余地が生まれるわけである。
本当に売れてしまうことも?
以上のように、とにかく会社に対して面子を保ちたいメーカーの営業マンは、実際に客に売れるかどうかはあまり気にしていなかったりする。
出荷の実績だけ作れば「無理を言って置いてもらいましたが、売れなかったので返品伝票を切りました。私のせいではなく製品のせいです」と抗弁できるからだ。安易に返品を受けることを責められる可能性はあるが、店舗に製品を陳列すらしてもらえず無能の烙印(らくいん)を押されるのに比べると、責任問題は大幅に軽減できる。ノルマが多ければ多いほど、この傾向は顕著になる。
しかし、こうした方法で店舗に無理やりねじ込むことで、多少なりとも客の目に止まり、売れることもなくはない。たとえ店頭に陳列されずバックヤードで眠っていても、端末で在庫数を検索すると「あり」と表示されたことがきっかけで在庫の存在が知れ、たまたま問い合わせてきた客の手に渡る場合もある。
今回紹介した手法は決して褒められたやり方ではないが、ネット通販の発達により「在庫があって今すぐ持ち帰れること」が店舗の1つの価値になりつつある現在、メーカー営業マンのあくどい手口が、店舗スタッフすら気付かぬところで、売上の微増につながるケースもあったりするのだ。
関連記事
- 牧ノブユキの「ワークアラウンド」バックナンバー
- もう「自称オリジナル」にダマされない 隠れ海外OEM製品の見抜き方
自社開発力がなく、リスクを回避して手っ取り早く知名度を上げたい新興メーカーは、海外OEM製品を自社製品として販売するケースがある。最近クラウドファンディングでも見られるOEM元隠しの手口には、メディア関係者ですらだまされることも少なくない。 - 「これまでなかった新発想の製品」をライバルメーカーはなぜ軽視するのか?
「これまでなかった新発想」などと華々しいうたい文句で登場する新製品に対して、ライバルとなるメーカーは意外なほど興味を示さず、静観していることがほとんどだ。これは決して製品化するための技術力や企画力がないわけではない。 - 同じ型番の製品を買ったら仕様が違っていた そんなのアリ?
製品の仕様が変わると型番も変わるのが常識だが、さまざまな事情から同じ型番のまま販売が継続されることもある。中にはメーカーのサポート担当者が知らないうちに、製品の仕様がこっそりと変えられているケースまで存在するのだ。 - PC周辺機器界に「ペヨング」は生まれない?
「ペヨング」のような特売を意識したブランドは多くの業界に存在するが、PC周辺機器業界では、量販店で特売に使われるという意味では同様ながら、明らかな格落ち製品となるケースがしばしばだ。その理由について見ていこう。 - 言うだけ無駄? こんな要望はメーカーに採用されない
メーカーにどれだけ適切な方法で意見や要望を伝えても、全く相手にされないのには理由がある。言っても無駄な要望とは? - 「なぜ、この製品をこうしないのか」 メーカーがあなたの要望を聞かないワケ
製品に対する意見や要望をメーカーに伝える際、その表現や伝達ツールの選び方が間違っていると、せっかくの伝えようとする努力も無に帰してしまう。今回はこうした、メーカーに対する効果的な要望の出し方について、あらためて考えてみたい。 - 「これじゃ日本では売れないよ」 海外のPC周辺機器にありがちな残念ポイント
海外のPC周辺機器やアクセサリは、そのままでは国内で販売できないものも多い。色や形状、製品の特性など、思わぬところに日本のユーザーから敬遠されるポイントがあったりするからだ。 - 「どうしてこうなった……」という製品がロングセラーになる理由
「こんなの売れるわけないじゃん」という製品が、意外と延命できてしまうことは、PC周辺機器やアクセサリの業界では少なくない。こうした場合、コンシューマー市場とはまた異なる、表からは見えにくい販路が存在しているケースは少なくない。 - Appleに負けない高級な化粧箱を! でもコストは大丈夫?
簡素だったり海外製そのままのパッケージが増えている一方、スマホやタブレット、音楽プレーヤーなど価格が高めの製品ではパッケージの高級化が著しい。そんなにパッケージにコストをかけられるのかとも思うが……。 - あなたも疑われている? 敵は身内にあり?――量販店を悩ます「万引問題」の裏側
単価が高く薄利なPC周辺機器業界では、目に見えるところと見えないところ、さまざまな万引対策が行われているが、それには客以外を想定した対策も含まれていたりする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.