リスキーな製品にあえて手を出すメーカーの事情とは?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
既存の製品カテゴリーだけで売り上げの維持や上昇が見込めないメーカーにとって、新規カテゴリーへの参入は特効薬だ。しかし、ブルーオーシャンな市場がそうそうあるわけではなく、リスクがある製品カテゴリーを選ばざるを得ない場合もある。
単価の高さが魅力「海外のハードウェアの取り売り」
営業マンがより高額な製品を売りたがるのは、どの業界でも変わらない。営業マンの評価システムが未熟な会社で、利益額度外視で売り上げ金額だけをベースに売り上げ目標が設定されていれば、単価が安い製品よりも高い製品を営業マンが売りたがるのは自明の理だ。
PCアクセサリーメーカーにとって、これに該当するのがハードウェアの販売だ。先ほどの互換ACアダプターも、単価が1000円以下であることが多いアクセサリーに比べると十分に高価だが、ハードウェアであればどんなに安価な製品でも数千円が最低ラインになる。何百円程度のアクセサリーや消耗品をちまちまと販売店に卸すよりも、ほんの1台ハードウェアを売った方が、営業成績的には上を行くわけである。利益率が営業成績で考慮されないならば、なおさらである。
もっとも、ハードウェアはアクセサリーとは違い、販売にあたってフォロー体制の充実が不可欠だ。新しいOSなどでの動作確認はもちろんのこと、不具合があった場合のファームウェアの修正、ユーザーからの問い合わせに対する返答のコストなど、手間はアクセサリーの比ではない。細かいところだと、出版社や専門媒体に貸し出したレビュー用の機材が返却された際に元通りの状態に再生する手間など、これまでアクセサリーだけを販売していたときにはなかった手間が発生する。
従って、いくら営業マンらの現場がハードウェアを売る意欲があっても、会社としてはトータルのコストを勘案してそれらに慎重になるのが普通なのだが、経営判断をする側がこうした問題に不勉強で、かつ売り上げが行き詰まって打開策が見えなくなったときに、テコ入れと称してハードウェアの販売に乗り出すというわけだ。
とはいえ、長期的にはハードウェアを自社開発するのが目標であっても、いきなりその段階に到達するのは至難の業であり、まずは日本国内では流通していない海外のハードウェアを売るという選択肢を取りやすい。最小限の工数で済ませるため、ファームウェアなどのアップデートが不要で、メニューなどのローカライズも不要、サポートも最小限で済むカテゴリーが選ばれやすい。説明書さえ差し替えればオーケー、というのがベターだ。
一時期あちこちのメーカーが取り扱っていた、形状がユニークなUSBメモリや、USBハブ、カードリーダーなどは、その典型といっていい。これらの製品はハードウェアの中でも単価が安い部類に入るが、国内外で規格が違っていることもなく、無線通信を行わないことから技適を取得する必要もないため、数百万はする費用の持ち出しも発生しない。
これらの製品をやたらとプッシュするようになれば、まとまった額の売り上げを上げなければいけない、何らかの事情が存在しているとみてよさそうだ。
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