モバイルは諦めモード? 1年で変わったWindows 10のモダンアプリ戦略:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/2 ページ)
「Desktop Bridge」を使って既存のデスクトップアプリケーションから変換された「UWP」アプリがWindowsストアに登場しているが、この変換ツールの目的は当初から変わっている。
2017年5月上旬に米ワシントン州シアトルで開催された米Microsoftの開発者会議「Build 2017」では、現状のサマリーを含む今後の同社の最新技術に関するトピックが多数紹介された。本連載では何回かにわたって、ここでの主要トピックを取り上げていく。
今回は、過去にも度々取り上げたWindows 7以前のデスクトップアプリケーションをWindows 10以降の“モダン”な実行形式である「UWP(Universal Windows Platform)」アプリに変換するツールの「Desktop Bridge(Project Centennial)」に関する話題だ。
Windows 10 SとDesktop Bridgeの密接な関係
Build 2017では「Bring your desktop apps to UWP and the Windows Store using the Desktop Bridge」というセッションでDesktop Bridgeが解説されたが、ここでのセッションスライドの内容や基本的なコンセプトはBuild 2016での発表とほぼ同じだった。
ただ1年が経過したことで、実際にDesktop Bridgeを使ってデスクトップアプリケーションから変換されたUWPアプリがWindowsストアに登録され始めたほか、Microsoftの戦略変更によって幾つかの点でアップデートが行われている。
Desktop BridgeがProject Centennialの名前で発表されたころ、当初Microsoftがこのツールで意図していたのは、充実度の面で見劣りがしていたWindowsストア内のUWPアプリを拡充させつつ、Win32 APIや.NET Frameworkの既存デスクトップアプリケーションに関して、同APIやフレームワークを使わずに、デバイスに依存しないモダンなアプリへと移行していくための手段とすることだった。
そのため、1年前のセッション内での解説は、5段階あるステップの最後で既存のデスクトップ向けコードを廃した“完全形”のアプリを目指すものとなっている。
しかし、Microsoft内でUWPの定義がひそかに変更され、もともと「PCでもモバイルでもゲーム機でも共通して動作するアプリ」だったものが、現在では「APPXファイルとしてパッケージされたアプリ」となり、Win32コードを含んでいるためにPCでしか実行できないアプリであっても「UWP」と呼ぶようになっている。
さて、Build 2017でアップデートされた部分の1つとしては、新たに「Windows 10 S」がターゲットOSとして追加された点が挙げられる。
以前にも説明したように、Windows 10 Sは「Windowsストア経由のアプリ以外実行できない」という制限を設けたWindows 10の機能制限版だであり、基本的にはWin32 APIを含めて共通のコード体系を持っている。
つまり、「Win32コードを含んでいるため、Windowsストアで配布されるUWPアプリながら、PCでしか実行できない」というDesktop Bridgeを明確に意図した作りとなっている。また単純に、デスクトップアプリケーションをUWPアプリに変換しただけでも、アップデートの自動化のほか、レジストリや共有ファイルの分離によるクリーンインストールの容易さなど、非常に多くのメリットがある。
Windowsストアの利用に個人アカウントが必要だった点も改善され、アプリの配布手段として、使い勝手は大きく向上した。
実際、Build 2016でデモとして紹介されたEvernoteをはじめ、幾つかのメジャーなデスクトップアプリケーションがDesktop Bridgeを通じてWindowsストアに登場した。また、Microsoft自身もデスクトップ版OfficeをDesktop Bridgeで変換して、Windowsストアに登録している。
このUWPアプリ版OfficeはWindows 10 Sをターゲットとしているが、筆者をはじめとして日々の作業に使うツールがごく限定されたユーザーにしてみれば、「これで十分」というタイミングが近づきつつある。
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