受注しなければよかった? 大口案件で消えていくPCアクセサリー:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
季節ごとの売上数の変動があまりないPCアクセサリー業界にとって、法人などの大口案件は魅力的だが、それらはときとして製品の終息を早めることにもつながる。一体どのような事情によるものだろうか。
大口案件への対応が製品の終息につながることも
PCアクセサリーのほとんどは海外で生産されており、発注から入荷までは2〜3カ月かかるのが普通だ。今回見てきたように、セット販売やノベルティといった大口案件が発生したからといって、まるまる1回分のロットに相当する数量を、いきなり2週間後に倉庫に納入しろというのは、現実的には不可能だ。
ではどうするかというと、通常在庫の補充として現在発注中のロットをそれら大口案件に回し、空白になった通常在庫分を追って手配する、という形になる。これにより、大口案件には何とか対応できたものの、店頭で売り切れた通常在庫はいつまでたっても補充されない、という事態が起こるわけである。
もっとも、大抵の場合において、こうした大口案件による欠品は店頭で目立つこともなく、ユーザーも気付かないのが普通だ。恐らく読者諸氏も、特定のサプライやアクセサリーが長期欠品していて困った事例に遭遇したことは、あまりないのではないだろうか。
その理由は、今回紹介したように、大口案件で欠品しがちなのはマニアックなアイテムが中心であり、メジャーなアイテムは欠品にまで至らないことが一つ。
もう一つは、長期的な欠品が発生した場合、店頭の棚が空白になったことが分からないよう自社の別アイテムと入れ替えることで、それっきり店頭から姿を消してしまうことが多いからだ。欠品しているのに手をこまねいていた結果、事情を知った他社が別アイテムをねじ込み、売り場を奪取するケースもある。
そうして消えていった製品は結果的に廃番へと至るケースもあり、製品寿命という観点で見ると大口案件を受注しない方がよかった、ということも少なくないわけだが、そこまでマクロな視点で判断を下すのは、毎月の売上確保に追われている営業マンや購買担当者にはまず不可能だ。
PCのアクセサリー・サプライメーカーは、数年のうちに、全ラインアップの半数近くが新製品に入れ替わっていることもしばしばだ。それらの多くは、新しく出てきた製品に押し出されて古い製品が売れなくなることによるものだが、中には、今回紹介したような大口案件が引き金となって、終息に至る例もある。
つまり売れすぎて供給が不安定になることで、製品としての寿命を絶たれるわけで、こうしたケースがあることを、知っておくのも面白いだろう。
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