未来の物流に変革をもたらす3Dプリンタ最前線(2/2 ページ)
3Dプリンタが製造現場や物流を変革しつつある。3Dプリンタを用いた「HP Jet Fusion 3D 4200 プリンティングソリューション」を展開する日本HPとSOLIZE Productsに最新状況を聞いた。
3Dプリンタが設計を変える
3Dプリンタから最終製品を直接作るメリットとして、金型が不要になり、金型の保管費およびメンテナンスの費用が浮かせられることは述べた通りだが、金型による量産にはつきものだった制約がなくなる点も見逃せない。例えば、長期間使用していなかった金型につきものの、テストショットを繰り返すことによる材料ロスは、3Dプリンタでは発生しない。時間のロスも、それに伴って減ることになる。
「射出成形品は、金型を持っておかなくてはいけませんし、さらに金型を磨いたり、肉盛りするといったメンテナンスのコストもかかってきます。これらが全部なくなり、デジタルのデータだけになるのが、1つの大きな削減ですね」(秋山氏)
さらに面白いのが、金型や切削で作られていたパーツを3Dプリンタで置き換えることで、従来の工法では不可能だった設計の最適化が可能になることだ。金型を用いた量産では、流し込んだ樹脂がスムーズに行き渡るための勾配を設けるのが一般的だが、3Dプリンタではそうした制約がないため、必要な形状をそのまま作れる。
「私たちの3Dプリンタをご検討されているお客さまで、実際にこういったパーツを作ってみてほしいと依頼されたデータを見ると、射出成形であれば型抜けのよい形、切削であればパスの数を少なくするなど、従来の設計手法に配慮した構造になっていることがよくあります。つまり、そのパーツで達成したいものが何か、ではなく、生産設計の考え方がデザインを左右してしまっているわけです。私たちの3Dプリンタは異方性も考慮する必要がないので、デザイナーさんやエンジニアさんが作りたいものを、そのまま描いてくださいとお願いしています」(秋山氏)
これによって、従来は複数のパーツを組み合わせていた部品が1パーツとして出力できるようになり、結果としてパーツ単位での最適化にとどまらず、製品そのものの設計の最適化が図られるケースも出ているとのことだ。これらが次の製品の設計にフィードバックされれば、金型での量産を前提としたこれまでの製品とは異なる、アッと驚くような製品が、将来的に登場する可能性もある。
「SOLIZEには3次元設計を行うエンジニアリング部門もありますので、今ある製品をそのまま3Dプリンティングするだけでなく、3Dプリンタならではの最適化設計のお手伝いもしています。軽量化だけでなく、複数部品の一体化などを積み重ねていくことで、次世代の製品の開発に役立つかもしれません」(乃村氏)
この他、ロボットハンドの先端など、産業機械におけるワンオフの部品などでも、3Dプリンタで最適化された設計が取り入れられている。軽量化によってモーターへの負荷を抑える他、樹脂化によって対象物を傷つけるリスクを減らすなどの効果があるという。カスタマイズの義手義足やヘッドギアなどでも、3Dプリンタで設計を最適化した最終製品が、販売されている事例もあるそうだ。
3Dプリンタが物流を変えていく
そして、ここまで見てきたような3Dプリンタによる生産革命は、物流にも大きな影響を及ぼす。
従来の物流と言えば、メーカーの工場から倉庫へ、倉庫からエンドユーザーへと、配送業者によって届けられていた。しかし、前述の自動車のカスタマイズパーツや、補給部品は、3Dプリンタを保有するサービスビューローから、直接エンドユーザーの元に届くことになる。メーカーの倉庫にいったん納品される場合も、メーカーの工場から倉庫へと、製品を輸送する流れは発生しなくなるのだ。
さらに最近では、そうしたパーツのデータを、ユーザーに対するサービスの一環として、オンラインで配布するメーカーも出現しつつある。そうなると、メーカーを介することなく、ユーザーが最寄りのサービスビューローに発注を行い、出力されたパーツを現地に赴いて受け取ったり、または小口で配送してもらうことが可能になる。
「補給部品が必要になったときに、お客さまが大阪にいて、サプライヤーが東京だった場合、これまでは東京から送っていましたが、大阪に3Dプリンタがあればその場で出力できるので、輸送費を大幅に削減できます。私たちのお客さまの中にも、設計はアメリカでやって、そのデータを東南アジアに飛ばし、現地でモノを作っているメーカーもいらっしゃいます」(秋山氏)
海外の製品であっても、わざわざ現地から航空便や船便で送ってもらい、税関で長らく待たされることはない。オンラインでデータを受領し、それを最寄りのサービスビューローに持ち込めばいいだけだ。ユーザーが自ら所有する3Dプリンタを用い、自宅で出力するというケースも今後はより増えてくることだろう。
一方のメーカーにとっては、工場から倉庫への輸送費が不要になり、コストの削減につながる他、輸送に伴う二酸化炭素排出量の削減など、その利点は多方面に及ぶ。
「パーツや金型の保管費や物流費について、年間でどのくらいロスになっているかをしっかりと計算されている企業は、実はそれほど多くありません。こういうコストがかかってしまうものだと決め付けて、新製品の原価に振り分けてしまっているわけです。このため、財務効果を計算するときに、補給部品の管理、保管、物流で今どのくらいロスがあるのか、それを算出するところからお手伝いしています」(秋山氏)
いまもなお進化を続ける3Dプリンタ。広範囲に及ぶその影響は、未来の物流にも大きな変革をもたらすことは間違いなさそうだ。
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