アバターフォーマット「VRM」は何を狙っているのか:西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(2/2 ページ)
アバターは単に外観を持った3Dデータではなくなりつつある――「VRM」が生まれた背景と狙いを西田氏が解説。
必要な条件を先駆けて作るための「仲間作り」がポイントに
VRMコンソーシアムが作られるのも、VRMが持つ「アバターの著作人格権」をどう扱うか、という部分に大きく関係している。今のVRMは完璧なものではない。何が求められるのかも明確ではない。そこで、コンソーシアムに参加する企業から意見を集め、合議で決めていくことになっている。
これは筆者の印象だが、単純な技術論なら、フォーマット決定にコンソーシアムは必要ない。だが、「アバターというコンテンツをどう扱うのか」という話になれば、また違う話になる。企業の性質により、見ていることも考えていることも大きく違うはずだからだ。
VRMコンソーシアムは、規格全ての議論に直接的に参加する「正会員」から、コンソーシアム運営には参加できないものの、意見は自由に述べることができる「オブザーバー」まで、3段階の会員組織になる。スタート段階からオブザーバーとして「任天堂」が名を連ねているが、ここがポイントだ。VRMコンソーシアムとしては、多数のコンテンツ関連事業者の参加を期待しているようだ。そこでは、会費のいらない「オブザーバー」でもいい。アバター関連ビジネスでの懸念点を、とにかく関連事業者から集めて磨いていきたい、と考えているという。
コンソーシアムにはどの企業も入れる建て付けになっており、現状の参加社は「スタート時の賛同企業」という扱いでしかない。フォーマットとしては、適切な「オープン志向」だと考える。
VRやARでのデータ交換フォーマットについては、VRM以外に幾つも提案がある。glTFはもちろんその1つだし、Pixarが作ってAppleがiOS 12の標準とし、Adobeも賛同している「usdz」もそうだ。だが、アバターの著作人格権まで視野にいれたアバターフォーマットは、現状提案例がない。
技術的に難しいわけではない。アバターはVtuberなどのコンシューマーコンテンツに限定された存在ではない。SNSのアイコンのように、誰もが当たり前に「自分のアイデンティティー」として使うようになる可能性があり、ビジネスシーンでの利用も考えられる。だからこその基盤整備であり、どこか大手プラットフォーマーが仕掛けてくれば、それがいきなりデファクトスタンダードになる可能性もある。
だが、「まだない」からこそ、そこにビジネスチャンスを感じ、ドワンゴは、フォーマット構築と仲間作りに入ったのだろう。いかに「広い意見を集約し、常に進化させながら、アバターのあるべき形を作るか」が、VRMの課題であり、まさにそれこそ、彼らがやりたいことなのである。
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