WWDCで鮮明になった「Apple=安心ブランド」という戦略:「安心」を土台にデジタル技術の未来を再構築(5/5 ページ)
tvOS、watchOS、iOS、macOSに加え、第5のOSとしてiPadOSも発表されたAppleの開発者イベント「WWDC 2019」。5つのOSに共通する開発姿勢を見ると、今、世界で起きている新しいデジタルの潮流とピタリと符合をしていることが鮮明になってきた。Appleの今だけでなく、世界のテクノロジー業界全体が迎えている変化についても見ていこう。
火ぶたを切ったTech4Goodの戦い:シリコンバレー vs. 我々の未来
ちなみに、人々が日々の暮らしの中で安心してデジタル機器を使えるように、悪行を続けるIT企業とプライバシー保護の戦いをしているのは、今ではAppleだけではない。
2018年はEU(欧州連合)が、この姿勢を打ち出しGDPR(EU一般データ保護規則)を打ち出したし、最近、デジタル系ベンチャー企業の勢いが凄まじいフランスのITベンチャー企業にも、プライバシー保護を旗印にした企業が多い。またシリコンバレーと同じ米国でも最近、西海岸とは違う経路のテクノロジーベンチャー企業が増えているニューヨークのベンチャー企業も同様だ。
今、プライバシー情報をのぞき見して未来の資産となるAIを構築し、広告ビジネスなどを通して監禁していた旧来型のIT企業と、新興のIT企業との間で大きな抗争が始まっている。ちなみに、これは単にIT業界だけの話題ではなく、これからを生きる人類全体の課題だ。
今やデジタルテクノロジーは日々の暮らしや仕事で当たり前に使われ、世界数十億人に影響を与える重要な基盤だ。しかし、それがこれまで一部のテクノロジー企業の利益だけを拡大するためであったり、テロや選挙といった内政に干渉したりする手段などに悪用され、半ばデジタル無法地帯を広げている側面があった。
これまでは「そうはいっても、デジタルテクノロジーとはそういうものだから仕方がない」というあきらめの声が聞こえることが多かったが、最近ではこれから先のデジタル社会を安心・安全なものとするために、徹底抗戦の姿勢を見せる人々が増えている。
特にヨーロッパでは勢いがある。ポール・ミラー(Paul Miller)というイギリス人が広めた「Tech for Good(Tech4Good)」というキーワードを掲げて、デジタルテクノロジーの活用を、もう1度、その姿勢から見直そうという流れが起き始めているのだ。
フランスで開催される政府、公共サービス、ファッション業界も巻き込んだテクノロジーイベント「Viva Technology 2019」では、2018年に引き続き2019年も「TECH FOR GOOD」が大きなテーマとなった。テクノロジー企業の代表らが、社会によいことをどのようにしているかの取り組みについて、環境、プライバシー、働き方などさまざまな視点で語りあった
5月にパリで開催された「Viva Technology 2019」というイベントでも、エマニュエル・マクロン仏大統領やカナダのジャスティン・トルドー首相らが「Tech4Good」を声高にうたい、政府としてもデジタルテクノロジーの姿勢を見直していく姿勢を強く打ち出した(日本政府からもそうしたビジョンであったり、姿勢だったりを期待したいところだが……)。
こうした世界的な新潮流が生まれる中、それを一番、真剣に実践しているのが、シリコンバレーの中心、クパチーノを本拠地として、PC市場やスマートフォン市場を誕生させ、デジタル時代を切り開いてきた最も老舗のテクノロジー企業、Appleというのは実に面白い構図だが、やはり、老舗には老舗としての責任感や気概があるのだろう、と感じたのが2019年のWWDCだった。
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