脇役だった製品がいきなり売れ筋に PC用品コーナーの裏事情:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
売り場が違えば、製品の回転率や利益率といった常識もまた異なる。ある売り場では脇役だった商材が別の売り場ではスポットライトを浴びたり、また低粗利であることを生かして別の売り場へ参入したりと、さまざまな可能性がある。PC用品コーナーとそのメーカーによる「薄利ビジネス」について見ていこう。
薄利を生かして隣の売り場に殴り込み?
ここまで紹介した2つとは逆に、他の売り場でシェアを独占している製品に戦略製品を薄利でぶつけ、PC用品メーカーが参入しようとした例がある。インクジェット用紙がそれだ。
インクジェット用紙はPC用品のようにみえるが、大型の家電量販店では、紙やインク類の専門コーナーで扱われている。これらの紙コーナーはプリンタ本体メーカーを中心とした専業メーカーががっちりと棚を確保しており、PC用品メーカーにとっては長年、近くて遠い存在だった。
ところがある時期、PC用品メーカー発のインクジェット用紙が、これら紙コーナーに大量に導入され、ある家電量販店では専業メーカーの定番製品をもう少しでひっくり返すところまでシェアを伸ばしたことがあった。
これはPC用品メーカーが、専業メーカー製のインクジェット用紙が薄利なのに目を付け、家電量販店が高利益率で売れる戦略製品を投入したのが原因だ。自社の利益をギリギリまで削り、その分、家電量販店のマージン幅が広くなる仕入価格を設定し、「定番をこの製品に入れ替えるだけで利益率がアップしますよ」と持ちかけたわけである。
面白いのは、そのPC用品メーカーがぶつけたインクジェット用紙が、既に紙コーナーで売られている専業メーカーの製品のOEMだったことだ。専業メーカーの製品にぶつける目的でインクジェット用紙の仕入元を探していたところ、よりによってその専業メーカーのOEM部隊と商談が成立し、中身が同じ製品を投入可能になった、というわけである。
もちろん専業メーカーのOEM部隊は、まさか卸した製品が自社製品と同じ売り場に、しかも価格を破壊する目的で投入されるとは想定しておらず、専業メーカーの社内は大混乱に陥った。なにせ同じ品質で卸価格がそれ以下と来ては、出荷を続ければ定番をひっくり返されるのは必至だ。最終的にそのPC用品メーカーへのOEM供給は、当初の契約数量をもって打ち切られるに至った。
しかしながら紙コーナーの側からは、せっかく利益率の高い製品を持ってきてくれたのにOEM元に妨害された気の毒なメーカーとして同情され、そのPC用品メーカーはそれ以降、ほそぼそとながら関連製品を納入するようになったというから面白い。「本丸」を落とすことには失敗したものの、販売店からの信頼を得ることには成功したというわけだ。
以上のように、売り場が違えば常識もまた異なっており、ある売り場では脇役だった商材が別の売り場ではスポットライトを浴びたり、また低粗利であることを生かして別の売り場へ参入できる可能性があったりというのは、弱者ならではの戦法には違いないが、ビジネス的には示唆に富んでいる。もっとも、同様のケースは恐らくどの業界でも起こっており、これも氷山の一角なのだろう。
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