5つの視点で振り返る「Apple Watch」のすごさ:林信行が読み解くApple Watch5周年(1/5 ページ)
Appleのスマートウオッチ「Apple Watch」が、2020年4月で発売5周年を迎える。登場前と登場後で何が変わり、これからどこへ向かうのか。林信行氏が解説する。
今から5年前の2015年4月24日、Apple Watchが世界同時で発売となった。故スティーブ・ジョブズCEOの没後、初めてつくられた新カテゴリーの商品だけに大きな注目を集めたこの製品。登場直後には(それまでの新カテゴリー製品同様に)懐疑的な声を出す人も多かったが、瞬く間に世界で最も売れている時計の座を奪ってしまった。
これは「Appleファンが多いから」といった言葉で片付けられる実績ではない。この製品の一体どこに、それほどの魅力があるのか、5つの視点、5つのパートで振り返ってみたい。
かなり長めの内容になったが、コロナ禍で外出自粛の週末に、じっくり楽しんでもらえればと思う。なお、5つのページのそれぞれで2015年からの5年の進化をSeriesごとに写真でも紹介してみたので、そちらもお楽しみいただきたい(文章とは連動していません)。
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大使館での夕べ
「スイスワインはお好きですか?」
今から5年前の4月、知り合いを通してスイス大使館への誘いを受けた。会場に足を運ぶと、スーツ姿の人がぞろぞろいて、これからディスカッションが始まるという。テーマは2週間後に迫った4月24日、「Apple Watchの発売」にどう備えるかだ。
名刺交換をすると、参加していたのは銀座の高級百貨店で見かける1本の値段で自動車が買えるほどの超高級時計ブランドの人が多く、フランスを代表する宝飾ブランドや日本の電算機メーカーの人もいた。
2014年9月、Apple Watchの発表会で現物を見ている筆者にも意見を聞きたかったのだろう。
中心になって話していたのはエルマー・モック氏だ。人気ブランド、SWATCHの生みの親の1人だ。
意見を求められた私は、参加者を少し安心させようと、こんな風に答えたと思う。
「Apple Watchは、通知機能など、これまでの時計にはなかった新しい価値を提供する。ただし、あくまでもiPhoneの周辺機器で、単体で買っても使えるわけではない。また技術製品なので、製品の入れ替わりのペースも激しい。スイスの時計のようにおじいさんの時計を孫が引き継ぐ、といった文化を生むことはないだろう」
ディスカッションが終わって、皆が大使公邸の庭でワインを楽しみ始めた頃、モック氏が私にポツリと言った。
「でも、我々がつくる時計なんて、すぐにApple Watchが一蹴してしまうと思うよ」
その2週間後、Apple Watchが世界同時で発売された。日本でも大きなニュースとなり、筆者はアプリ開発者やプレスを招いたローンチイベントを主催していた。
Apple WatchがROLEXを抜いて、時計の売上高世界一となったのは、それからわずか2年後の2017年だった。調査会社Strategy Analyticsはつい先日、2019年に出荷されたApple Watchは3070万本という推定を出した。これはスイス時計業界全体が1年間に販売する時計の量(2110万本)を大幅に上回る数字で、2018年からの売り上げ量もApple Watchが36ポイント増加しているのに対して、スイス時計業界は13ポイント減少している。
今日(4月24日)は、そんなApple Watch販売開始の5周年になる。
iMac、iPod、iTunes、iPhone、iPadといった他のApple製品がそうだったように、Apple Watchも我々のデジタルライフスタイルをあらゆる角度から大きく変えてしまった。いや、それどころか、「人命を救う」という大事な機能によって、少なくない人たちの人生をも変えてしまった。
Apple Watchが世にもたらした変化はあまりにも多様すぎて、よほど広くアンテナを張っていないと、全てを捉えることはできないが、本稿では筆者が観測している範囲での変化を振り返ってみたい。
Apple Watchで何よりも革新的だったのは、バンドが簡単に取り替え可能な点だ。エラストマー、レザーそして金属バンドが用意された。今でもファッション同様、年に2回新作バンドのコレクションが発表され続けている
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