Windowsが圧倒的? 課題はネットワーク? ICT教育の現状と課題、先端事例:短期集中連載「プログラミング教育とGIGAスクール構想」 第2回(2/4 ページ)
2020年度は小学校、2021年度は中学校で新しい「学習指導要領」が完全実施される。教育へのICT(情報通信技術)の活用がより進むことになるが、実際の教育現場はどうなっているのだろうか。その先進的事例を紹介しつつ、学習用端末、通信ネットワーク、デジタル教材やサービスにまつわる現状と課題を見ていく。
端末だけではなく「ネットワーク」も課題の1つ
プログラミング教育やICT機器を活用した教育を実現するには、生徒に十分な数の学習用端末を行き渡らせるだけではなく、インターネット接続を含むネットワーク環境の整備も重要な課題となる。
昨今の教育向けICTサービスは、Webブラウザベースで稼働するものや、クラウド(遠隔サーバ)を利用するものが多く、インターネットへの接続は欠かせない。GIGAスクール構想でも、「1人1台の学習用端末」と「高速大容量の通信」を合わせて整備することが盛り込まれている。
学習用端末からインターネットへの接続は、Wi-Fi(無線LAN)を利用することが一般的だ。しかし、1つの教室で数十人が同時に接続することになるため、家庭用のWi-Fiルーター(アクセスポイント)を流用するとスペック的に厳しい恐れもある。この点で参考になるのが、埼玉県飯能市にある聖望学園中学校・高等学校(以下「聖望学園」)の事例だ。
聖望学園では、2016年から中学校の全生徒に自宅に持ち帰れるiPadを貸与し、校舎にはWi-Fi環境を構築している。しかし導入当初、学校でのWi-Fi通信が頻繁に途切れてしまうという現象が生じたのだ。
調査の結果、この通信途絶の原因はWi-Fiアクセスポイントが備える「DFS(動的電波周波数選択)スキャン」によるものと判明した。
5GHz帯のWi-Fi(IEEE 802.11ax/11ac/11a/11n)の一部チャンネル(帯域)は、気象レーダーや航空レーダーが利用する帯域と重複する。当然、レーダー用途の通信が優先されるので、利用中のチャンネルがレーダーと干渉する場合は、それを回避する必要がある。
DFSスキャンは、通信に用いるチャンネル(帯域)がレーダー通信と干渉しないかどうかをチェックする仕組みで、5GHz帯に対応する現行のアクセスポイント(ルーター)には標準でこの機能が備わっている。一般的なアクセスポイントでは、通信用のアンテナでDFSスキャンを行うため、スキャンが実行される約1分間は、5GHz帯のWi-Fiが利用できなくなる。
「あれ、5GHz帯のWi-Fiだけ通信できないぞ……」という現象が発生した場合、ほとんどはDFSスキャンが原因だ。
DFSスキャンはアクセスポイントの電源投入時だけではなく、レーダー通信を検知した時にも行われる。スキャンが頻発する状況は「DFS障害」と呼ばれる立派な“通信障害”である。
聖望学園でDFS障害が発生した原因は、その立地にある。同学園から少し離れた場所には、航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市、入間市)や陸上自衛隊朝霞駐屯地(東京都練馬区、埼玉県朝霞市、和光市、新座市)がある。これらの基地や駐屯地、その周辺には航空レーダーが配備されている。航空レーダーが出す電波が、DFS障害を引き起こしたと考えられるのだ。
そこで聖望学園は、DFS障害回避機能を標準で備えるバッファロー製Wi-Fiアクセスポイント「AirStation Pro WAPM-2133TR」を導入した。
先述の通り、一般的な5GHz帯対応Wi-Fiアクセスポイントでは、通信用アンテナでDFSスキャンを実施する。それに対し、WAPM-2133TRはDFSスキャン用アンテナを別途装備し、常時DFSスキャンを実施している。通信用アンテナとDFSスキャン用アンテナを分けることによって、レーダー通信を検知した際のチャンネル切り替え時間は大幅に短縮される。結果、通信が「切断」されるトラブルも減る。
なお、WAPM-2133TRは2.4GHz帯×1チャンネルと5GHz帯×2チャンネルの計3チャンネルで同時通信できる「トライバンド通信」と、それぞれのチャンネルに接続端末を均等に割り振る「バンドステアリング」にも対応している。そのため、40人程度の大人数クラスでも安定した通信が可能だ。
このアクセスポイントを設置した教室では、DFS障害が原因と思われる通信トラブルは一切起きなくなったという。
聖望学園では、多くの授業でリアルタイム授業支援アプリ「MetaMoji ClassRoom」を活用している。ICT担当の永澤勇気教諭は、教育のICT化で重視していることとして「インタラクティブ(双方向性)」と「リアルタイム」の2点を挙げる。
筆者は、同学園の中学2年生の数学の授業を見学したことがある。生徒は全員、学校から貸与されているiPadを持参しており、5〜6名ずつのグループに分かれて授業を受けていた。
担当教師がプロジェクターで投影している問題の上に、電子黒板システム用のペンを使って手で書き込みながら、問題のポイントを解説していく。生徒のiPadにもその画面が共有され、紙のノートや教科書は使わずに、手慣れた様子でiPadに指でメモなどを書き込んでいた。
それぞれの生徒の画面は、プロジェクター画面にもサムネイルといて表示されており、生徒は自己申告で「正解」「不正解」を選ぶと、画面の背景の色に反映される仕組みとなっている。
生徒にタブレット授業の感想を聞いた所、「紙の教科書やノート、鉛筆を使うよりも分かりやすい」とのことであった。もちろん、全ての授業でタブレットを使っているわけではないが、数学と理科ではタブレットを使うことが多いそうだ。
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