WWDCに見る、Appleがプライバシー戦略で攻める理由:他社にも盗んでほしい(2/5 ページ)
WWDC20において、Appleがさまざまな新情報を公開したが、その根底には「安心・安全なのに便利」というユーザーのプライバシーに関する取り組みが流れている。林信行氏が読み解いた。
1つの理念、4つの原則、テクノロジー×デザインで臨む
Appleが2020年秋の新製品から採用するプライバシー保護の工夫は、どれ1つをとっても学ぶことが多いが、こうした1つ1つの実例以上に大事なのが、そうした対策を生み出してきた根っこにあるAppleの理念や原則の方で、それがあるからこそ、Appleはユーザーからの指摘が上がってくる前に、先手先手のプライバシー保護戦略を打ち出すことができている。
一番の根っこにあるのは「ユーザーのデータはユーザーの所有物」という理念だ。
これを実現するために、Appleは
・1)Data Minimization:データを最小化する
・2)On-Device Intelligence:機器内で処理する
・3)Security Protection:セキュリティーでしっかり保護する
・4)Transparency and Control:利用者に透明性と管理権を与える
という4つの原則を掲げた。1のData Minimizationは、要求するデータや活用するデータは必要最小限にとどめるという原則だ。2のOn-Device Intelligenceは、そのデータを扱った計算などの処理をiPhoneやiPadなどの機器内で完結させること、これは一度、データをネットワーク越しのサーバに転送して高速処理をする代わりに、そのデータを盗み見をするという、それまでのIT業界の慣行に一石を投じる原則となった。
3のSecurity Protectionは、ユーザーの大事なデータが保管されているiPhoneなどの機器内のデータを、プロセッサレベルで管理された指紋認証や顔認証などを使ってしっかりと守るという原則だ。そして4のTransparency and Controlは、ユーザーにデータがどのように集められ、どう活用されるかの理解を促し、嫌なら断るといった具合にユーザー側の要望を尊重するというものだ。
これらの原則に基づいて、秋以降提供の最新OSでは、Appleはプライバシー保護に関する6つの取り組みを発表した。
もっともAppleらしいのが、「App Storeのプライバシーポリシーの明示」だろう。Appleはご存知の通り技術力だけの会社ではなく、高いデザイン力も備えた会社ということを強く感じさせる。
今後、App Storeを使ってアプリを提供する会社は、登録時にユーザーデータの取り扱いに関するアンケートに答える必要があり、その結果がApp Store内にプライバシーポリシーとして表示される。
「プライバシーポリシー」と聞くと、多くの人はアプリの初回起動時に形式的に表示される長過ぎて読む気も失せる規約文を思い浮かべるかもしれない。アプリによってどんな情報がのぞかれて、どう使われる可能性があるかなど重要なことが書いてあるはずなのに、文章で示されるとあまりにも情報量が多く、ほとんどの人が読まずに合意してしまう。
秋以降の新OSでは、App Storeで提供するアプリは全てユーザーからどんなプライバシー情報を得ようとしているのか、それをどのように活用しようとしているのかを明示することが必須となる。これまでこうした情報は小さな文字で長々と書かれた確認事項として提供されていたが、有名無実化していた。プライバシー保護においては、デザインも重要と感じさせるAppleらしいアプローチだ
最近、再流行している顔写真を性転換する「FaceApp」も、実は規約をちゃんと読むと、撮影したあなたの顔写真を自由に使う権利などを与えてしまっており、一部で問題視されている。
これに対して、AppleがApp Storeで使うプライバシーポリシーは、明快で数個のアイコンと説明文を見るだけで、どんな情報をのぞこうとしているのか、どんなトラッキングをしようとしているかが一目で分かる。Appleのデザイナーは、米国で販売している食品の成分表示からインスピレーションを得て、この表示を考えデザインしたという。
食品売り場で食材を選ぶ時、好ましくない成分が入っていないか、裏返して成分表を確認するように、見識のある利用者は、アプリをダウンロードする前に、この表を見て、例えば購入履歴をのぞかれるのが嫌な人は「Purchase(購入)」情報をのぞくアプリを避けたり、設定で真っ先に購入履歴の確認をオフにしたりするといった対策が打てる。勘の良い人なら、開発者がどんな理念や姿勢でアプリを開発しているかを伺い知るヒントにもなるかもしれない。
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