WWDCに見る、Appleがプライバシー戦略で攻める理由:他社にも盗んでほしい(4/5 ページ)
WWDC20において、Appleがさまざまな新情報を公開したが、その根底には「安心・安全なのに便利」というユーザーのプライバシーに関する取り組みが流れている。林信行氏が読み解いた。
トラッキング行為との徹底抗戦
Appleがプライバシー保護で一番重視しているのが、企業がユーザーの動向をユーザーの知らないところで監視するトラッキングだ。Appleは2017年、こうしたトラッキング行為に宣戦布告をするようにIntelligent Tracking Prevention(ITP)という機能を搭載。Webビジネスの世界でも大きな話題となり、トラッキング行為の抑止力の1つにもなった。
Safariでの採用で好評を博したトラッキング対策が、アプリ間トラッキングにも適応されるようになった。アプリをまたいだ利用分析などを行っているアプリでは、トラッキングをする前に、利用者に「それをしていいか」許可を求めなければならなくなる
6つの取り組みの5つ目は、このトラッキング防止をアプリの世界にも持ち込もうという取り組みだ。一部のアプリ開発者は、Webサイトや他のアプリと連携して、より詳細なユーザーの趣向データを集めている。例えば広告サービスが組み込まれた無料アプリだと、この広告サービスがアプリ間でのユーザーの行動履歴を媒介するということもある。
もちろん、1つのアプリ内では完結しない処理を、別のアプリとの連携で解決するといった正当なアプリ連携もあるので、アプリの連携を全て禁じることはできない。
そこで2020年リリースの新しいApple製OSからは、このようなWebページや他アプリと連携したトラッキングをしている場合は、そのことをユーザーに知らせて、承認を得てからでないと連携ができないというポリシーが課せられることになった。この規約に違反したアプリは、App Storeでの提供を差し止められることもある。
最後、6つ目の取り組みは、そのSafariのIntelligent Tracking Prevention(ITP)機能の進化だ。ITPの機能自体は2017年頃から搭載され、より多くのトラッカーによるのぞき見を抑制してきた。次世代のmacOS Big SurやiOS 14では、新たにSafariがどんなトラッカーの働きを抑え込んでいるかの一覧を見ることができる。詳しく見たい人には、全てのWebブラウザでこの30日間にブロックしたトラッカーの一覧を見ることもできる。
2017年からSafariに搭載されたトラッキング防止機能、Intelligent Tracking Prevention(ITP)では、新たにどのトラッカーの働きをブロックしたかの一覧を表示するようになった
実はSafariにおける変更はそれだけなのだが、この可視化によってITPがGoogle Analyticsにも制限をかけていることにある開発者が気がつき、ツイートをし、それがいくつかのニュースサイトもとりあげる大騒ぎになった。
しかし、実際にはITPのGoogle Analytics(や他のトラッカー)の扱いは変わっておらず、ブラウザにWebサイトとは異なるサーバからアクセスが頻繁にあると、そのサーバをマークし、サードパーティークッキーと呼ばれるユーザー情報の受け渡しをブロックする。Google Analyticsはこうした状況に備えサードパーティークッキーに頼らない方法で解析を行っているので、実際にはこれまで通り問題なく使える。
なお、ここまでで紹介してきたプライバシー保護/セキュリティ関係の新機能は氷山の一角だ。秋の新OSではこれ以外にも、多くの細かな新機能が追加されている。あえて後2つ挙げるなら、例えば家庭内のネットワークに接続された機器が識別できないようにするセキュリティ対策の機能や、パスワード漏えいの通知は重要な機能だろう。後者は最近、パスワード漏えいが報告されたWebサイトのパスワードがSafariに保存されていると、「パスワードが漏えいした可能性がある」と注意を表示し、変更を促すという機能だ。
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