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ビールだったら回収騒ぎ? PC周辺機器メーカーがパッケージの誤記を気にしない理由牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

外注先による製造ミスが発覚した場合、検収を拒否して、仕様通りの製品をあらためて作らせるのが一般的だ。しかしPCの周辺機器やアクセサリーの業界では、最終的にこうした「B級品」を、メーカーが買い取ることが多い。どのような事情によるものだろうか。

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 先日ネットで話題になったのが、限定品のビール「サッポロ 開拓使麦酒仕立て」が、ラベルの誤植を理由に発売中止を決めたニュースだ。最終的に撤回され、無事に店頭に並ぶことになったものの、「LAGER」(ラガー)を「LAGAR」と1文字誤っただけで発売を中止するという判断に、ネットには驚きの声が相次いだ。

 もともと食品の中でも酒類、中でもラガービールは酒税法などの絡みで表記が特に厳しく、そのまま販売すれば他社からとがめられかねない事情もあったようだ。最終的にGoサインが出たのは、世間からの「もったいない」という声が強まったためで、要するに消費者を味方につけたことで、他社や公取が批判しにくい状況を作った、ということだろう。

 さてこうした製造ミスによって、本来の仕様と異なる製品が出来上がってしまうことは、業界を問わずよくある話だ。PCの周辺機器やアクセサリーの業界も例に漏れないわけだが、こちらは製品自体が使い物にならないケースを除けば、最終的には発売に至ることがほとんどといっていい。具体的にどのようなケースがあるかをみていこう。

外注先の製造ミスが発覚して検収拒否するケース

 PCの周辺機器やアクセサリーの業界で起こりうる製造ミスには、大きく分けて2つのパターンがある。一つは樹脂製品や布製品によくある、色や素材にまつわるミスだ。例えばカラーバリエーションを作るときに色の調合に失敗し、以前のロットと微妙に色が異なる製品が出来上がってしまうパターンなどがこれに当たる。2つ目を購入したユーザーからの指摘で、初めて発覚することもある。

 もう一つは、ハード的に仕様書と異なる製品ができてしまうパターンだ。例えば、本体に直結しているケーブルが定められた仕様より短かったり、あるいは性能が低いパーツが混入し、周辺機器で規定のパフォーマンスが発揮できなかったりといった具合だ。メモリモジュールのように、外観だけでは性能の優劣が分かりにくい部品が混入しているときに起こりやすい。

 PCの周辺機器やアクセサリーの業界はその多くが外注先に製造を委託しているので、これらは仕様通りに製造しなかった外注先のミスという扱いになる。つまりメーカー側は何の責任もなく、その場で検収を拒否するだけで済む。作り直しによって納期が遅れるという意味では損害を被るが、これも外注先のミスが発端なので、後で補償させればよい。

 特にメーカーが神経質になるのは、法人に供給している製品だ。というのも、長年にわたって同じ型番のモデルを継続納品しているような場合、万一、要求仕様に満たない品が混入していることが発覚すると、過去に納入した製品までまとめて返品になったり、検査を要求されたりする可能性があるからだ。外注先がやらかしたミスで、このような事態になってはたまらない。

製造ミスの品をメーカーが買い上げる理由とは?

 このように、製造ミスが発覚した場合、メーカーにとっては検収を拒否して突き返せばそれで済むのだが、外注先にとっては一大事だ。予定していた売り上げが立たないだけでなく、製品には供給先のメーカーの型番が入っているので、他のルートに販売して現金化するわけにもいかない。再生するにもこれまた莫大なコストがかかる。

 特にハードウェアは製造原価そのものが高いだけに、それらが突き返されてしまうと、運転資金が乏しい外注先にとっては、ロットの規模によっては経営破綻につながりかねない。判断が遅れれば遅れるほど、引き取った製品を保管する倉庫代もかさんでいく。事実、こうしたミスが倒産や身売りにつながったケースもある。

 もっともよほど悪質なケースでなければ、いよいよピンチという段階になって、外注先に救いの手が差し伸べられることが多い。その主は他でもない、発注元のメーカーだ。

 といっても、ミスを許容して当初と同じ条件で全数を買い上げるわけではない。本来の仕様とは異なる「B級品」として、廃棄や再生にかかる費用よりはわずかに高い程度の条件でなら、買い取ってもいいという条件を提示するわけである。

 外注先にとっては屈辱的な条件だが、ほんのわずかであっても現金化して支払いに充てられれば危機を回避できるだけに、背に腹は代えられない。メーカーの言い値を飲んで、再納品を受諾することになる。

 こうしてメーカーに再度仕入れられた製品は、B級品として新たな型番が付けられた上で、数量限定のチラシ商材として販売店に卸されたり、価格が原因でこれまで取引口座が開けなかった販路への新規開拓商材に用いられりと、フル活用される。メーカーにとっては、格安で卸しても十分な利益が得られる商材が思わぬところから手に入り、この上なくラッキーというわけだ。

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