「強いIntel」復活なるか 新CEOの2兆円投資がPCユーザーにもたらすもの:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)
Intelのパット・ゲルシンガー新CEOが発表した新しい戦略は「強いIntel」の復活を予感させるかのような内容だった。2兆円を投じた新工場建設をはじめ、新しいIntelの戦略はPCユーザーに何をもたらすのだろうか。
米Intelは3月23日(現地時間)、米アリゾナ州に最新技術で半導体を生産できる2つの工場を新設し、2024年までに稼働させると発表した。同工場で生産されるのは、Intelの次世代生産技術である7nmプロセスを採用するチップで、投資額は実に200億ドル(約2兆1700億円)にのぼる。
その投資額に注目が集まりがちだが、最も注目すべきは同時にファウンドリー事業を立ち上げると宣言したことだ。ファウンドリーとは他社が設計したチップの生産を受託する事業で、世界トップとして台湾TSMCが知られているビジネスモデルだ。
なぜこの発表が注目なのか。それはIntelの大きな、いや180度方向が異なる事業方針を示しているからだ。そして、新戦略はかつての圧倒的に強かったIntelが復活する可能性をも示唆している。
2カ月で大きく転換したIntel
この新戦略を発表したのはCEOに就任し、まだ2カ月しか経過していないパット・ゲルシンガー氏だ。Intel中興の祖となった元CEOであるアンドリュー・グローブ氏の右腕を務め、副社長をはじめ主要な職務を担っていた。
このように書くとエリートのイメージを抱くだろうが、18歳でIntelに入社し社内の奨学金制度で学びながら上り詰めた苦労人だ。Intelの副社長を辞してからはVMwareのCEOを務めていた。
ゲルシンガー氏はIntelが躍進し始めたIntel 80386というプロセッサの時代から、同社の強みを技術的な側面、経営戦略的な側面、両方でよく知る人物でもある。
現在でも粗利が55〜56パーセントと非常に高い収益性を誇るIntelだが、かつては60パーセントを越える時期もあった。その高い利益率を支えてきたのは、製品に関わるあらゆる要素を自社で提供するIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合型デバイスメーカー)というビジネスモデルを確立したからだった。
チップの設計、製造、販売に目が行きがちだが、Intelはその上で動作するソフトウェアや開発のためのツール、あるいは生産したチップのパッケージ技術や実機に搭載する際のサポート、そして半導体製造技術への投資と工場建設、運用など、ありとあらゆる要素を統合してきた。
IntelのIDMが成功した理由は、Intel製プロセッサの上で動作するソフトウェアが業界標準となってきたからに他ならない。世界中で使われるパソコン需要の大多数が採用するマイクロプロセッサを同社が供給してきたため、驚異的な粗利率から得られる巨額の収益を半導体製造技術の研究開発費に投入し続けることで、他社よりも優れた半導体チップを独占的に生産できたのだ。
ところが、ここ10年は新しい半導体製造技術の開発が滞り、ズルズルと延期を繰り返して計画通りに製造技術のアップデートを行えなくなっていた。製造技術をアップデートできなければ、計画通りに大規模化した設計のマイクロプロセッサを投入できなくなる。
あるいはスペックや絶対性能を上げるため、ある程度コスト上昇などを容認した設計、製品企画でラインアップをリフレッシュせざるを得なくなる。また生産キャパシティーの面でも製造技術のアップデートがなければ需要を満たせなくなるなど、だんだんと(あの完璧だった)IntelのIDMモデルに乱れが生じていた。
ゲルシンガー氏の前任であるボブ・スワン氏は、こうした状況に「他社への生産委託も検討している」と踏み込んだ発言をしていた。ところがゲルシンガー氏が就任すると一転。IDMモデルを強化すると発表した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.