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WWDC21で新ハードウェアは出なくとも「Apple Siliconが戦略の中心」と感じた理由本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

Appleの開発者会議「WWDC」が今年も開催。新ハードウェアや新チップの発表はなかったが、各OSのアップデートや連携の強化といった全体を見渡してみると、やはりApple Siliconが戦略の中心にあると感じられた。

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Neural Engineでクラウドからオンデバイスの機能に

 先日発売になったApple TV 4Kを取材していて、やや疑問に感じたことがあった。

 SoCがA10 FusionからA12 Bionicにアップデートされ、リモコンでの操作の改善はあったものの、4Kテレビ対応のIPセットトップボックスとしては以前から高速で、SoCの変更による体験の質はほとんどなかった(4K・60fpsのハイフレームレートHDR動画に対応したものの、日本ではコンテンツ不足だ)。

 最も大きな影響のありそうなApple Arcadeのゲームも、A10 Fusionを意識したチューニングが行われている。将来的に画質が向上するなどの効果はあるかもしれないが、大きな体験差は生まれない。

 将来的にはもちろん有意な違いを生み出すだろうが、正直にいって、あまりA12 Bionicに置き換える理由がみえなかった。

 一方で、A12 Bionicを使うのであれば、この世代から大幅に能力が強化された第2世代Neural Engineの活用かもしれないと思ったものの、写真の分析であれば時間さえかければA10 Fusionで十分であるし、iCloudを通じた連合学習でも問題は解決できる。

 しかしWWDC21で発表されたオンデバイスの音声認識機能は、A12 Bionic以降でしかサポートされない。Appleは昨年、iPadのベースモデルも第8世代iPadでSoCをA12 Bionicへと引き上げている。

Siri
Siriへのリクエスト音声はデバイス上で処理することが可能に。インターネットに接続しなくても利用でき、クラウド経由の音声アシスタントにおける不要な音声録音の懸念にも対処している

 このような事例がいくつぐらいあるのかを見極める必要があるが、AppleはCore MLを用いた機械学習処理のベースラインをA12 Bionic内蔵Neural Engineの能力にまで引き上げようとしているのではないだろうか。

 Appleはこれまでクラウドで処理する必要があった機能をデバイス上で実現することで、不必要な情報をクラウドに送信しなくてもいいように機能の実装を見直しており、それはSafariやOS自身へのATT(App Tracking Transparency)の実装といったプライバシー戦略とも連動している。

 これは開発者たちにとっても悪い話ではない。Core MLを使ったアプリ開発で、一つ基準とすべきアンカーが存在していれば、開発時に使えるリソースの目安となるからだ。

タイトに連携しても統合はしないMacとiPadのOS

 さてもう一つ(予想されたことではあるが)明らかになったのは、AppleはiPadシリーズを過度にMacへと近づけはしないということだ。ルック&フィールは似たものになるように今後も調整はされるだろうが、ユーザーインタフェースの成り立ちが異なる二つのプラットフォームを一つにはしない。

 一方でタイトな連携は積極的に行っている。FaceTimeでのトークセッションを拡張し、動画や音楽、あるいはアプリそのものの画面を共有しながら会話を行えるSharePlay、その時々の状況に応じてメッセージや通知の受け取りをミュートしたり、ホーム画面のアイコンやウィジェットレイアウトを切り替えたりする集中モード、ブラウザの利用シナリオを再検討して使いやすさを増した新しいSafariなどは、画面サイズによる操作性の違いはあるものの、iPhone、iPad、Macへと同様に実装され、iPadはどちらかといえばMac的なユーザーインタフェースが与えられる。

SharePlay
FaceTimeで複数のユーザーと動画や音楽、アプリの画面を共有しながら通話できる「SharePlay」

 iPadOS 15とmacOS Montereyを並べて使うとき、どれか一つのデバイスから他のデバイスの画面を操作したり、ドラッグ&ドロップでデータの交換が行えたりといった驚きのスムーズな連携機能もある。

WWDC21
macOS Monterey搭載MacのカーソルをiPadOS 15搭載iPadのディスプレイに向けて動かすだけで、iPadが自動的にカーソルを認識し、シームレスに操作できる

 iPadに関しては、まだスマートフォン向けのiOSだった名残が多く、マルチウィンドウでのアプリ連携などに難を残していると感じる。iPadOS 15ではそれらの改良が進められていくものの、iPadをMac化したり、その逆にMacをiPad化したりというシナリオはなさそうだ。

WWDC21
iPadOS 15ではマルチタスクメニューがアプリ上部に追加され、1回のタップでSplit ViewやSlide Overに切り替えられる

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