最近よく聞く「レイトレーシング」 一体ナニモノ?:レイトレーシングが変えるゲームグラフィックス(第1回)(3/3 ページ)
エントリークラスの独立(外部)GPUだけでなく最新のゲーム機にも広がってきた「リアルタイムレイトレーシング(RT)」への対応。リアルタイムはともかく、「レイトレーシング」とは一体何なのか? 簡単に解説する。
DirectXにRTが統合されるということの意味
2018年10月、Windows 10の「October 2018 Update(バージョン1809)」において、DirectXを通してRTを扱うための技術「DirectX Raytracing(DXR)」が新たに実装された。Windows PCにおける汎用(はんよう)的なレイトレーシング技術への対応は、このタイミングから始まったことになる。
本誌読者には改めて解説する必要はないかもしれないが、「DirectX」はWindows 95から実装されている、Windows環境におけるマルチメディアコンポーネントAPIである。グラフィックス、サウンド、入力デバイス(キーボードやゲームコントローラなど)、ネットワークといったゲーム開発に必要なハードウェアのプログラミングをWindows環境下でリアルタイムに実践しやすくするために構築されたものだ。
現行のDirectXには大きく「DirectX 11」「DirectX 12」の2系統があるが、それぞれにおいて3Dグラフィックスをつかさどる「Direct 3D」の最新バージョンは「Direct 3D 11.4」「Direct 3D 12.2」となる。
これらはWindows 10/11だけでなく、Xbox Series X|Sシリーズ向けのゲーム開発でも利用される。
「DirectXでRTが利用できるようになった」ということは、単にWindows PCやXboxにおけるゲームグラフィックスにレイトレーシング技術を利用できるようになった……というだけでない大きな意味がある。というのも、間接的ながらもDirectXの新機能がゲーム機のグラフィックス機能の設計に影響を与えているからだ。
例えば、ソニーの「プレイステーション3(PS3)」のグラフィックス機能は、DirectX 9.0c世代のGPU「GeForce 7800 GTX」ベースだった。その後継となる「プレイステーション4(PS4)」のグラフィックス機能は、DirectX 11世代のGPU「Radeon HD 7850」がベースである。同様に、任天堂の「Wii U」のグラフィックス機能はDirectX 10.1世代の「Radeonn HD 4800」、「Switch」のグラフィックス機能はDirectX 11.1世代の「GeForce GTX 700シリーズ」がベースだ。
こんな感じで、ゲーム機におけるグラフィックス機能の進化はDirectXのバージョンアップとある程度連動しているのだ。
Nintendo Switchは、NVIDIA製のSoC「Tegra X1」をカスタマイズしたプロセッサを搭載している。Tegra X1にはGeForce GTX 700シリーズと同じMaxwellアーキテクチャのGPUコアが統合されている(画像は有機ELディスプレイモデル)
GPUメーカーは新技術を開発すると「うちの技術をDirect 3Dに盛り込んでください!」とMicrosoftに提案する。業界全体でコンセンサスを得られると、その新技術がAPIに盛り込まれるということが過去に何度もあった。
最も大きな出来事としては、この記事の冒頭でも触れたプログラマブルシェーダーの採用が挙げられる。
プログラマブルシェーダーは、2000年にDirectX 8の新機能の1つとして盛り込まれた。その後、PC用GPUで対応が進み、ゲーム機のみならず携帯電話用のGPUにも採用されるほどの“基盤技術”となった。他にも、DirectX 10に盛り込まれた「統合型シェーダー」、DirectX 11に盛り込まれた「テッセレーションステージ」も、その後のGPUの標準仕様として定着している。
先述の通りPS5やXbox Series X|SはRTに対応しているし、携帯電話(スマホ)用のSoCでも、Samsung Electronicsの「Exynos 2200」のようにRT対応のGPUコアを統合した製品が登場している。過去を踏まえると、レイトレーシングはゲームグラフィックスにおける標準技術の1つとして普及が進むのはほぼ確実だ。
次回は、今回の記事を踏まえて、このレイトレーシング技術が、実際のゲームグラフィックスにどこまで応用されるのか見ていくことにしたい。
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