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コラム

色的にも意義的にも深みがある緑色――「iPhone 13」「iPhone 13 Pro」の新色をじっくり眺める(2/2 ページ)

3月18日、iPhone 13シリーズとiPhone 13 Proシリーズに「緑色」が追加される。緑色と聞くと、一見地味な印象も受ける。しかし、林信行氏によると、実物を見ると印象が大きく変わるという。どういうことなのだろうか?

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緑色を“開拓”するApple

 Appleでは、製品デザインからソフトウェアの画面構成、効果音までの全てを「Design Studio」で設計している。このDesign Studioには、デザインのあらゆる側面に関わるエキスパートがいる。例えば、色1つにしても世界トップクラスの色覚と感性を持ったエキスパートがいれば、製品にどのような表面処理をすればどのように光沢が描かれるかを知り尽くしたエキスパートもいる。

 筆者は以前、別のメディアで「AirPods Max」の開発担当者にインタビューをした。その席にいたデザイナーの1人、ユージン・ワン(Eugene Whan)氏は、「アルミニウムにどのような酸化皮膜処理を施して、どのようなカーブを持たると、製品のどの部分にどんな光沢が現れるかを全て把握しており、そうしたことを全て計算して製品を作っている」と語っていた(参考リンク)。

 そんなAppleのDesign Studioが“1色勝負”で出してきた春の新色は、それだけにこれまでの工業製品では見たことのない美しさを放っており、一見の価値がある。既にiPhone 13/iPhone 13 Proシリーズを持っている人も、買う必要はないが、店頭(できれば蛍光灯は避けて、自然光の多い店頭)で色合いを確認してみると良いかと思う。

色とは光
改めて書くまでもないが、色というのは「光の反射」のことである。つまり、どんな光が当たるかによっても、物の見え方は変わる。同じiPhone 13 ProとiPhone 13でも寒色系の光、暖色系の光、明るい光、暗い光と条件を変えるだけでかなり緑色の見え方が変わる

 緑というと、環境意識を表す象徴的な色でもある。実際に、Apple自身もiPhoneに使われる部品の調達から、製造過程、使用中のエネルギー消費、さらには使用後のリサイクルまで一貫して環境に配慮している企業としてよく知られている。そういう意味でも、そして「Apple(りんご)」という社名からも、緑は相性がいい色かもしれない。

 しかし、実は工業製品において「緑色」に再現するのには、大きなチャレンジがつきまとう。鉛の黄色と青色を混ぜてつくる作り方はもちろん、臭素を使って作り出す緑色も、処理の仕方によってはダイオキシンの発生など環境汚染につながってしまうのだ。

 しかし、創業72年を迎えるスクリーンインキ製造会社「セイコーアドバンス」(埼玉県蓮田市)は、Appleなどの協力を得て環境にもやさしい緑色のインキを開発し、iPhone 11 Proで採用された「ミッドナイトグリーン」で採用された。

 今回の緑色がセイコーアドバンスによる色かは公表されていないが、これまでと同様に環境に配慮して作られてはいるようだ。 環境に優しい緑インキの開発の次のステップとして、Appleは工業製品の色としてあまり主流でなかった緑色の色相を新たに開拓し始めたようである。

 今後、こうして技を磨いたインキメーカーが、同じインキをApple以外の他社にも提供することで、人類が使う道具そのものにも豊かなカラーバリエーションが生まれることになるだろう。実際、セイコーアドバンスによるiPhoneの黒色、俗称「アップルブラック」は人気の色で国内、海外のさまざまなメーカーがさまざまな製品の彩色に使い始めている。

ティム・クックCEO
工業製品のカラーにおいて、困難を抱えやすいものの1つが「緑色」である。iPhone 11 Proシリーズのミッドナイトグリーンで使われている染料を開発したセイコーアドバンスには、Appleのティム・クックCEOも視察に訪れていた
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