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人気スマホの特徴的なカラバリがモデルチェンジで消滅してしまう裏事情牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

iPhoneやiPadなどのスマートフォンやタブレットにおけるカラーバリエーションは、モデルチェンジの度にリセットされ、全く新しいカラーが投入されることがしばしばある。この理由の一端とみられるのが、色調合の難しさだ。

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 iPhoneやiPadをはじめ、スマートフォンやタブレットにはさまざまなカラーバリエーションがある。ところがこのカラーバリエーション、モデルチェンジの度にリセットされ、次は全く新しいカラーが投入されることがしばしばある。

 例えば「ゴールド」というカラーのモデルがあったとして、買い替えにあたって同じカラーを買おうとしたところ後継モデルではゴールドがなくなったため、仕方なく「スターライト」のようなよく似たカラーを選ぶといった具合だ。どうせなら同じ名称にしておいてくれれば楽なのに、と思ったことのある人も多いはずだ。

 これは多彩なカラーバリエーションを出してユーザーを飽きさせないというマーケティング上の理由ももちろんあるだろうが、その一方で、製造上やむを得ない事情もあると考えられる。それはロットが異なると、カラーの調合をいちからやり直すことになり、厳密に色を合わせるのが難しいという問題だ。

 iPhoneやiPadといったスマホやタブレットに限らず、PC周辺機器やアクセサリーにも当てはまりがちなこれらの裏事情をみていこう。

色は要求仕様をまとめにくい

 iPhoneやiPadは、複数の下請け業者が分担して、生産を請け負っていることがよく知られている。Appleほどの生産ボリュームがあると、1社だけで全数を生産するのは難しく、何かトラブルがあったときのリスクヘッジのためにも、複数の業者で分担するのがベターということだ。

 こうした場合はメーカー、つまりAppleがハードウェアの要求仕様書を用意し、複数の事業者がその仕様に沿って生産を行うことになる。これらの要求をクリアするのは容易ではないが、それらを生産できる能力がある事業者だけが、Apple製品の製造元になり得るということで、業者にとってはステータスのひとつでもある。

 もっとも、スペックさえ記述できれば済むハードウェアと異なり、製品の色合いというのは、要求仕様をまとめにくいので困りものだ。樹脂自体にその色を持たせるか、それとも塗装するかによっても違ってくるが、製品の色というのは、印刷用のカラーチャートで指定できるような単純なものではないからだ。紙に印刷しただけでも色味は違ってくるので、書面で「この色で」と指示することもできない。

 そのため大抵は要求仕様書に、同じ素材を使ったカラーチップを添付し、「この色味で」と指定することになるのだが、いざ量産段階で色を合わせようとしても、塗った後で乾燥させているうちに微妙に色味が変わることもあるし、全く同じ調合をしたはずが、前回とは微妙に違う色が出来上がることもざらにある。

「ならば新製品ごとに色を変えてしまえ」という発想

 こうした場合に同じ色の製品を作り続けるには、基本的に「生産ラインを止めない」のが手っ取り早い。ラインを止めずにひたすら作り続けていれば、調合の機会は日々繰り返し発生するので、うっかり失念する事態も防げる。

 しかし「今週はこの製品をまとめて作り、次週は別の製品をまとめて作る」といった具合に、複数の製品を入れ代わり立ち代わり製造している業者にとって、それは非常に難しい。複数の業者がそれぞれ作っているのであれば、それらの色味をすり合わせるのも難しい。

 であれば、せめてどうするかというと、大きく分けて2つの方法がある。ひとつは、ボディーカラーに関係する部品だけは、特定の業者に製造を一任し、それを各業者が仕入れて組み立てを行う方法だ。たとえ中身となる部品に微妙な違いがあっても、ガワは1社が製造しており見た目が同一なので、発覚しにくいというわけだ。

 もうひとつは、これが今回のテーマに関係してくるのだが、色は100%再現できないものとみなして、新製品を投入する度に、色そのものを変えてしまうという方法だ。そうすれば、前回のロットと色が合うまで何度もロットアウトを繰り返すという無駄な作業も避けられるというわけである。

 こうした事情があることを知れば、iPhoneやiPadが、モデルチェンジの度にカラーバリエーションの構成を変えてくるのも、ナルホドと理解できる。「買い替えたら同じ色なのに微妙に違った。返品だ」などとねじ込んでくる神経質な客も、この方法ならばブロックできてしまう。

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