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「Wi-Fi 7」が話題を集める中、なぜバッファローは「Wi-Fi 6E」フラグシップルーターを発売するのか? 開発陣に聞く(1/3 ページ)

バッファローがWi-Fi 6ルーターのフラグシップをモデルチェンジし、「Wi-Fi 6E」に対応した。次世代規格である「Wi-Fi 7」の足音が聞こえる中、あえてWi-Fi 6E対応としてリリースしたのはなぜなのだろうか。開発担当者に狙いを聞いた。

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 2022年9月、日本において6GHz帯の電波が無線LAN用途で“解禁”された。これにより、「IEEE 802.11ax」規格の無線LANにおいて、2.4GHz帯と5GHz帯に加えて6GHz帯も利用できるようになった。6GHz帯も使えるIEEE 802.11axについては、Wi-Fi Allianceのプロモーション名である「Wi-Fi 6E」と呼ばれることが多い。

 この法改正に伴い、ノートPCやハイエンドスマートフォンを中心にWi-Fi 6E対応デバイスは増加傾向にある。情報感度の高い人なら、既に対応機器が手元にあるかもしれない。

 一方で、米IEEEでは現在、IEEE 802.11axの後継規格として「IEEE 802.11be」を策定する作業も進んでいる。2023年3月現在、暫定規格の第3版(Draft 3.0)が決定しており、2024年内に正式規格として確定する予定だ(参考リンク)。

 Wi-Fi 6/6Eに対して、この規格は「Wi-Fi 7」というプロモーション名になることが見込まれているが、国内外の複数メーカーが既にWi-Fi 7(厳密には同規格の要素技術)に対応するアクセスポイントやルーターの発売を表明している。

 前置きが長くなったが、バッファローは5月にハイエンドWi-Fi 6Eルーター「WXR-11000XE12」を発売した。同社のハイエンドWi-Fiルーターとしては約3年半ぶりの新モデルで、税込みの実売価格は5万円弱となる。

 Wi-Fi 7の足音が聞こえてくる中、同社はなぜ、このタイミングでハイエンドWi-Fi 6Eルーターを投入するのだろうか。Wi-Fi 7への考えも含めて、本製品の関係者に話を聞いた。今回インタビューに応じてくださったのは、栗本憲太朗氏(コンシューママーケティング部 BBSマーケティング課 BBSマーケティング係)、太田雅矢氏(ネットワーク開発部 第三開発課)、二井勇磨氏(同)の3人だ。

インタビュイー
インタビューに応じてくださった3人(左から栗本憲太朗氏、太田雅矢氏、二井勇磨氏)

そもそも、Wi-Fi 7についてどう考えている?

栗本氏
Wi-Fi 7に対する考えを述べる栗本氏

―― 既に、一部のメーカーからWi-Fi 7に対応するアクセスポイントやルーターの発売が表明されています。まず御社は、このことをどう捉えていますか。

栗本氏 「Wi-Fi 7」が1つのキーワードとして認知されるようになってきている実感はあります。おっしゃる通り、競合メーカーさんがWi-Fi 7対応をアピールしていることが、認知向上につながっているのかなと思います。

 ただ、(Wi-Fi 7とも呼ばれる)IEEE 802.11beは現状においてまだドラフト(暫定)規格です。対応を表明されているメーカーさんも、ドラフト規格に基づいて「対応」としている状況にあります。

 また、日本に着目すると、総務省において同規格に関連する技術的要件の検討が進められています(参考リンク)。

 これらを総合すると、現時点では私たちが「いつからWi-Fi 7対応製品を提供する」と言及できる段階にはありません。ただし、やはり(正式規格が策定される)2024年頃から動きがあるのではないかという“期待”はあります。製品を提供する場合は、規格の確定から少しのタイムラグが生じる見込みです。

 そういう意味で、2023年は“現実的な”(規格がしっかり定まっている)通信機器として、Wi-Fi 6Eに対応する製品をしっかり提供しようと考えています。

Wi-Fi 7に向けて
IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)のメリットをフルに生かすためには、電波法令のさらなる改正を行う必要がある。総務省では現在、情報通信審議会の「情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 5.2GHz帯及び6GHz帯無線LAN作業班」において改正すべき事項の整理を進めている(総務省公開資料より:PDF形式)

今、Wi-Fi 6Eルーターを買うメリットは?

―― 現時点で「Wi-Fi 6E」対応ルーターを購入するメリットは何でしょうか。「6GHz帯が使えるようになった」という説明はよく聞くのですが、より分かりやすい例があれば教えていただきたいです。

栗本氏 PCやスマホ、タブレットの仕様書では、どのような無線LAN規格に対応していて、どのような周波数帯域に対応しているのかという情報は書いてあります。しかし、理論上の最大通信速度、あるいは最大の電波帯域幅が明記されていないことが多いです。

 Wi-Fi 6対応デバイスの場合、従来は「80MHz幅」に対応するデバイスが多かったのですが、最近は2倍の「160Hz幅」に対応するデバイスも増えています。このトレンドはPCが先行していたのですが、ハイエンド機種を中心に、今後はスマホやタブレットでも対応機種が増えることが見込まれています。

 理論通りに単純計算すると、同じ通信規格であれば電波の帯域幅を2倍にすると通信速度も2倍になります。電波の幅をより広く確保できれば、より高速な通信を行えるのです。

仕様書
Googleは、Wi-Fi 6/6E対応のPixelスマートフォンの対応帯域幅を明記している。画像は最新の「Pixel 7a」のもので80MHz幅で通信できることを示しているが、上位モデルの「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」は2倍の160Hz幅で通信できるようになっている

栗本氏 「なぜ帯域幅の話を突然始めたの?」と思ったかもしれませんが、従来のWi-Fi 6では、160MHz幅の帯域を最大2チャンネルしか確保できません。近隣で5GHz帯の無線LANを使っているアクセスポイントが多いと、相互干渉でスループット(実効速度)が落ち込む可能性があります。また、お住まいの地域によっては「DFS(動的周波数選択)」によって通信が中断する可能性もあります。

 その点、6GHz帯であれば160MHz幅の帯域を最大3チャンネル確保可能で、5GHz帯と合わせて5チャンネルから選べるようになります。しかも、6GHz帯のチャンネルならDFSによる通信中断もないので、より快適な通信を行えます。

 もちろん、弊社の新フラグシップWi-Fiルーターでも、5GHz帯と6GHz帯で合計5つの160MHz幅チャンネルを選べます。今後対応機器が増えて使われる機会が増えるであろう160MHz幅のチャンネルを、混雑させず快適に有効活用できることが大きなメリットです。

メリット
6GHz帯を利用できることのメリット

太田氏 古いWi-Fiルーターを使っていると、どうしてもファームウェアの更新では対処しきれない“限界”が訪れます。ハードウェア、ソフトウェアのどちらにも寿命があるのです。

 Wi-Fiルーターの更新を行うタイミングの見極めは難しいものです。私たちとしては、タイミング的にスマホとセットにした買い換えがピッタリだと考えています。最近のスマホは3〜4年使う人が増えていると聞きますが、昨今の無線LAN規格(IEEE 802.11シリーズ)も3〜5年おきに何らかのアップデートがあるので、ちょうどいいかなと。

 2023年にスマホを買い換える予定の人は、Wi-Fi 6E対応ルーターへの買い替えを検討する絶好のタイミングです。

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