2035年、ゲームグラフィックスは「オール・パストレーシング時代」へ――レイトレーシング技術の“先”を見つめる:レイトレーシングが変えるゲームグラフィックス(第4回)(3/3 ページ)
レイトレーシング技術は、ゲームグラフィックスの世界に革命をもたらした……のだが、GPUの性能的にはまだ“完璧”とは言いがたい面もある。いつになったら完璧になるのか――2035年にその瞬間が訪れるという説がある。どういうことなのか、解説していく。
2023年は「パストレ対応ゲーム」元年!?
ゲームグラフィックスをパストレで描画するというアイデアは、クラウドレンダリングソリューションを提供するOTOYという企業が2012年から提案している。
このアイデアは同社のゲームグラフィックスエンジン「Brigade」を通して実装が試みられ、2015年3月にはそのコンセプト動画も公開されている。
Brigadeはいわゆる「クラウドゲーミング」に近い実装で、2012年時点のデモでは高性能な外部GPUサーバの力を借りてパストレ描画を実現していた。そのデモでは、トゥームレイダー風な3人称視点の女性キャラクターが東洋系の街並みを走り回っていた。
その後、Brigadeの開発がどう進捗(しんちょく)したのかは不明だが、現在も公式サイトは存置されている。
2012年に公開されたBrigadeの実働デモ。プレイヤーの操作で女性キャラクターが街中を走り回り、その様子をパストレで描画していた。当時の高性能GPUサーバを駆使してHD(1280×720ピクセル)/60fpsでの描画を実現できたものの、実用的とは言いがたい面もある
2012年当時は全く現実味のなかった「パストレベースのゲームグラフィックス」だが、2023年3月に状況が一変する。
「GDC 2023」に合わせて、CD PROJEKT REDは自社の人気タイトル「Cyberpunk 2077(サイバーパンク2077)」にパストレ対応を施した「テクノロジープレビュー版」を公開した。このプレビュー版の開発にはNVIDIAも全面協力している。
このテクノロジープレビューは、4月11日付の無償アップデートでPC版Cyberpunk 2077の全ユーザーが利用可能となった。グラフィックスオプション設定で「レイトレーシング:オーバードライブモード」とするだけで、誰でもパストレ描画を試せる。
ただし、当然ながらパストレ描画は非常負荷が大きく、GeForce RTX 4090クラスの超ハイエンドGPUを用意しないと快適なプレイを望めない。
参考に、Cyberpunk 2077における描画モード別のパイプラインの模式図も掲載しておく。
Cyberpunk 2077の「レイトレーシング:ウルトラモード」における描画パイプラインの模式図。PlayStation 5など、レイトレ対応GPUを搭載するゲーム機/PCでこのモードを選択すると、ラスタライズ法とレイトレを併用する「ハイブリッドレンダリング」が行われる
Cyberpunk 2077にプレビュー実装されている「レイトレーシング:オーバードライブモード」における描画パイプラインの模式図。ラスタライズ法による描画を行わず、全てをレイトレ(≒パストレ)に置き換えているので一見すると「シンプルでいい」と思いがちだが、シンプルになった代わりに演算量が膨大に増えるため、超ハイエンドGPUを用意しないと描画が厳しくなる
筆者が見た限り、Cyberpunk 2077のパストレ描画は小道具/大道具や建造物といった「無生物オブジェクト」に当たる照明は非常に正確である。一方で、人物など「折れ曲がって変形するオブジェクト」の一部が鏡像表現に含まれていないことが気になった。恐らく、ここが“妥協”のポイントなのだろう。テクノロジープレビューということもあり、まだ完璧ではないのだ。
仕事柄、筆者に「どこまでゲームグラフィックスは進化するの?」と聞いてくる人は多い。とりあえず、現状では「最初の目標到達点は2035年にあるようなので、各自がその時まで長生きして、みんなで確認してみましょう」と答えることにしている。
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