新型「Apple Watch」に秘められた“大きな飛躍” 実機に触れて分かった、スペックに現れない進化:Series 9はマイナーバージョンアップか?(1/2 ページ)
Apple Watchシリーズの新モデル「Apple Watch Ultra 2」と、「Apple Watch Series 9」が発売される。それらの実機を見て感じたことを、林信行氏がまとめた。
9月13日に開催されたApple Eventでは、「iPhone 15/15 Pro」シリーズと共に、Apple Watchの最新製品「Apple Watch Series 9」と、2022年に鮮烈なデビューを飾った「Apple Watch Ultra」の最新版となる「Apple Watch Ultra 2」が発表された。
これら両製品は、スペック表の機能だけを見比べると2022年のモデルとの変化は少ない。進化はスペックシートでは見えない水面下で起きているモデルのようだ。
今回、新たに発表された「Apple Watch Ultra 2」(オレンジ/ベージュのトレイルループ/左)と、「Apple Watch Series 9」(アルミニウム/ミッドナイトとミッドナイトのスポーツループ/右)をレビューした
新Apple Watchシリーズはマイナーバージョンアップ?
Apple Watch Series 9と2022年発表のSeries 8は、一見すると本体の見た目はそのままだが何が新しくなったのだろうか。
目に見えない部分では、新たに「Precision Finding for iPhone」という機能に対応した。日本語に訳すと「iPhoneの正確な位置を探す」といったところか。物の正確な位置が分かる第2世代UWB(超広帯域無線)に対応したチップの搭載によって可能になった機能だ。
これまでのAppleの「探す」に対応した製品は、
- Wi-FiとGPSを組み合わせたおおよその位置情報
- 数m以内の範囲にいる時にどちらの方向にあるかを教えてくれる第1世代UWBで探す機能
- 製品から音を鳴らしてその音で探す機能
という3段階で発見をサポートしていた。第2世代UWBは、この1と2の間を補完する技術で、隣の部屋に置きっぱなしのiPhoneも、どちらの方向かを教えてくれる。ただ、非常に残念なことに、この第2世代のUWB通信で探す機能は、日本では規制の関係で利用ができない。
となると、その他には従来モデルとどんな差があるのか。
画面の明るさ(Series 9は最大2000ニト/Ultra 2は最大3000ニト)と搭載プロセッサ(S9 SiP)が進化し、Siriを使った音声操作が通信不要でApple Watch内で処理されるようになった。
そう聞いても、「Siriでできることが変わったわけではないのなら、機能的に差はないのでは?」と疑問に思う人がいるかもしれない。確かに「できること」の差分という視点で見るとそうだ。しかし、製品を使う体験の質は向上している。
新機能のダブルタップが果たす役割
では、日本で最新モデルを買う人でも享受できる、全く新しい機能はないのかというと、そんなことはない。たった1つだけではあるが「ダブルタップ」という非常に重要な新機能が用意されている。
プロセッサが最新のS9 SiPにアップグレードされたからこそ実現したもので、これまでのApple Watchでは利用ができない本モデルだけの新機能だ。Apple Watchの日常での利用の仕方を、大きく変えてくれそうな機能でもある。
機能面では、2022年に新モデルを買った人がわざわざ買い替えるモデルではないかもしれない。しかし、このたった1つの機能のおかげで、買い換えたら買い替えたなりに使い方が大きく変わる魅力を備えるようになったともいえる。
親指と人差し指を勢いよくくっ付ける動作が「タップ」で、ダブルタップはそれを続けて2回行う操作だ。日常生活で習慣としてそんな動作をする人は少ない。だからこそ、意図したジェスチャー操作として採用されている。
では、どう使うのか?
例えば、電話の着信があったとしよう。Apple Watchの画面には着信の通知が表示されている。この状態でダブルタップを行うと、電話を受けることができる。一方、通話が終わったらダブルタップすることで電話を切ることも可能だ。
他にも、音楽の再生と一時停止、タイマーのスタートと一時停止、メッセージの返信(内容はSiriで音声入力する)といった基本操作に対応している他、最新のwatchOS 10の新機能、スマートスタックの切り替えも行ってくれる。
スマートスタックは、Apple Watchがユーザーの予定や天候の変化、ユーザーの日々の生活習慣から次に必要としていそうな情報を推測してウィジェットと呼ばれるカード状の情報として並べてくれる機能だ。
Apple Watchは腕にはめて使う道具という特性上、操作をするにはどうしてももう片方の手が必要で、2本の腕が自由になる時しか操作ができない問題があった。しかし、ダブルタップを利用することで、もう片方の手で鞄を持っていたり、誰かの手を握っていたり、ハンドルをつかんでいたり、ラケットを振っていたり、散歩中の犬のリースを引っ張っていたりする場合でも、ダブルタップを使えば電話の応答から音楽の再生、必要情報の確認まで多彩な操作ができるのだ。
今週リリースされたwatchOS 10自体が、Apple Watchの操作方法を大きく刷新するOSになっていたが、今後はそれにダブルタップを組み合わせた操作がApple Watch操作の基本になりそうだ。
ちなみに、体験という意味では先ほど軽く触れたが、画面の明るさも無視できない。Apple Watch Series 9の輝度はSeries 8の倍の最大2000ニトだが、これは2022年に、究極のサバイバルウォッチとしてデビューした初代Apple Watch Ultraと同じ明るさで、直射日光の下でも文字盤が見える明るさとして宣伝されていたレベルの明るさだ。
画面が明るいということは、屋外でスポーツをするときなど太陽光がまぶしい場合でも画面が見やすいという意味であり、これまでのようにApple Watchに届いた通知がどれだけ大事かを確認するために、木陰や軒先に移動する必要がなくなるということでもある。
また、S9 SiP搭載によって実現するSiriのデバイス上での処理は、プライバシー保護の観点という安全性の視点だけの改善ではないはずだ。画面が小さく、複雑な操作がしづらいApple Watchでは必然的にSiriを使った音声操作が多くなるが、これまでネット接続の問題でSiriの処理に時間がかかり、待たされた挙句に「もう1度、お話しください」と言われることがあったが、そうした問題は激減しそうだ。正確にどれくらいとはいうことができないが、Siriの反応速度が少し早くなった印象を受ける。
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