GPUの「レイトレーシング処理」改良の歴史をひもとく【GeForce RTX 30シリーズ編】:レイトレーシングが変えるゲームグラフィックス(第5回)(4/4 ページ)
主にPCゲームで使われるグラフィックス回りについて解説する連載を、約1年ぶりに再開。3回(予定)に分けて、GPUにおけるリアルタイムレイトレーシング(RT)処理がどのように改良されていったのか見ていこうと思う。今回は、NVIDIAの「GeForce RTX 30シリーズ」における改良だ。
三角形との衝突判定を“緩めた”ことも重要なポイント
もう1つ、ブロックダイヤグラムの比較で注目すべきポイントがある。GeForce RTX 30シリーズでは「Interpolate Tri Position(Time)」なるユニットが新設されているのだ。
ここは一体何をする場所なのかというと、イメージ的には「投げられたレイと三角形の衝突を計算する際に、特例事項を容認/介入させるユニット」になる。ここでいう特例事項は、レイとの「当たり判定」を緩くすることだと考えると分かりやすい。
衝突対象の三角形に「運動(移動)している属性」が付けられているとき、本ユニットはその三角形の速度パラメーターから逆算して(投射計算して)過去の位置(設定によっては未来の位置)を求める。これにより、Triangle Intersectionにおいて「衝突判定がゆるくなった三角形」との衝突も取れるようになった。
「なぜこんなことをする必要があるのか?」というと、現実世界とは違い、現在のレイトレーシング処理では、3Dシーン(正確にはBVH構造体)に投げられるレイの数に限りがあり、高速移動体とレイとの衝突判定でミスが生じる可能性があるからだ。
衝突判定を緩くする“補間ユニット”たるInterpolate Tri Position(time)が存在するおかげで、今まではうまく衝突できていなかった三角形とも衝突が取れるようになるのだ。
「え、判定を緩めてまで衝突を取って、何がうれしいの?」という疑問もあるかもしれない。そこに対する解説も必要だろう。
例えば、現在時間のレイに対して「今から1秒前、そこに存在した移動体の三角形」との衝突が取れたとする。現在時間には存在しないのだから、それは「残像」となる。
残像というのはうっすら見えるモノだ。だったら、その三角形をライティング/シェーディングした上でうっすら描いてやればいい。すると高品質な「モーションブラー」を作りやすくなる――そんなイメージの理解でいいだろう。
このメカニズムのおかげで、GeForce RTX 20シリーズのRTコアでは衝突が取れていなかったかもしれない移動体の描画品質の向上も期待できる。
ここまで聞くと「ゲームってよく3Dオブジェクトが動くし、これでレイトレを使ったゲームグラフィックスも加速しそう!」と期待が高まる。しかし、残念ながら今のところはそうなりそうにない。
というのも、このInterpolate Tri Position(Time)ユニットは、現時点ではDirectX Raytracingから使う手立てがないのだ。「じゃあどうやって使うの?」というところだが、NVIDIAはオフラインレンダリング向けに「NVIDIA OptiX」というレイトレーシングエンジン(フレームワーク)を提供しており、それを介して利用できる。
OptiXでは移動体として「Motion acceleration structure」を定義できる。Interpolate Tri Position(Time)ユニットは、こうしたオブジェクトに対してのレイトレーシングに有効ということなのだろう。
「交差判定のデュアル化」には大きな価値あり!
先述の通り、動きの速い動体への交差判定効率を上げる観点で重要なInterpolate Tri Position(Time)ユニットは、現時点でもDirectX Raytracingから活用する手段はない。そのこともあり、GeForce RTX 30シリーズのこの機能を活用したゲームは極めて少ない(ほぼゼロと言ってもよいかもしれない)。
ただ、レイの交差判定のデュアルパイプラン化は、ゲーム側のパフォーマンス向上につながる。特別な対応も不要なので、恩恵に預りやすい。これだけでも、GeForce RTX 20シリーズからGeForce RTX 30シリーズ以降に乗り換えるメリットは大きい。
自動的に高速化されることから、同クラス以上のGeForce RTX 30シリーズへ移行する価値はそれなりにあると考える。
次回は「GeForce RTX 40シリーズ」のRTコアの改良について解説していく。
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