「AirPods Pro 2」のヒアリング補助機能は歓迎 パナソニック補聴器事業に聞いて分かった歴史とミッション(4/4 ページ)
補聴器の企画、開発、品質維持を担う福岡市美野島の福岡拠点、生産および修理を担う拠点の佐賀工場を訪れて、パナソニックの補聴器事業を取材した。
ヒアリング補助機能が追加された「AirPods Pro 2」は脅威になるか
パナソニックの補聴器は、R5シリーズの最上位モデルの価格が両耳で120万円(片耳で65万円)、家庭内での利用を中心に日常生活をカバーできるスタンダードモデルでも両耳で49万8000円(片耳で32万8000円)となる。
その一方で、Appleが発売している「AirPods Pro 2」は、2024年秋のアップデートで聴覚の健康をサポートする機能を追加し話題を集めている。Appleは軽度から中等度の難聴を認識している人に、医療用と同等のヒアリング補助機能を提供すると説明しており、ノイズコントロールモードで聴覚を保護することになる。
AirPods Pro 2は3万9800円という価格で購入することが可能だ。パナソニックの最上位モデルと比較すると、30分の1という破格で購入できることになる。パナソニックの補聴器事業にとっては大きな影響を及ぼすことが考えられる。
だが、パナソニックの藤井氏は次のように説明する。
「パナソニックの補聴器は、普通の大きさの声が聞きづらいといった中等度難聴から、高度難聴や重度難聴の方々に対して対面でフルサポートを行い、長期間にわたって、最適な製品とサービスを提供することがベースになる。その点では、AirPods Pro 2などとはターゲットが異なる」とする。
パナソニックでは「聞こえ」の相談から聴力測定、補聴器選び、販売、購入後のアフターフォローに至るまで、一貫して専門スタッフが対応し、パナソニックならではのネットワークを生かして全国の顧客にきめ細かに対応するビジネスモデルとなっている。
軽度難聴を対象にしたAirPods Pro 2とは顧客層が異なるというわけだ。
「小さな声が聞きづらかったり、聞き間違いが多くなってきたりという軽度難聴者が、補聴器に興味をもってもらい、抵抗感がなく、利用してもらうきっかけになるという点では、他社製品の登場に期待している。これらの製品を利用していて、さらに聴力が悪くなってきた場合には、パナソニックの補聴器を使用してもらうという提案も可能になる。共存しながら、業界全体として、軽度難聴者から重度難聴者までアプローチできる環境が整い、補聴器そのものの普及につながると考えている」とする。
軽度難聴は、会話のほとんどが聞こえており、一部の言葉が聞き取れなくても、その部分を脳が補完するため、だいたい理解できてしまうという場合が多い。そのため、軽度難聴であるということに気が付かない人が多いのが実態だ。
また、先に触れたように日本での補聴器の普及率は低く、これを打開する突破口としての役割をAirPods Pro 2が担う可能性も生まれきたといえる。日本の補聴器業界全体としては、補聴器に対する正しい認識の広がりとイメージの改善、国内の補聴器市場の拡大という点で、AirPods Pro 2のヒアリング補助機能の搭載を歓迎しているというわけだ。
だが、AirPods Pro 2がヒアリング補助機能をサポートしたことで、市場に変化をもたらすとすれば、新たな市場環境に対応した事業戦略も必要になるだろう。今後のパナソニックの補聴器事業戦略に、どんな影響を与えるのかは気になるところだ。
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