「App Store」はどうなる? ヨーロッパではポルノアプリや政府の情報開示請求が問題に(2/5 ページ)
EU圏で先行しているスマートフォンの代替アプリストアの運用。日本国内での「APP Store」は今後どうなるのか、現状を林信之氏がまとめた。
EU圏でスタートした代替アプリマーケット
Appleと裁判沙汰になり、App Storeでの提供が止まったEpic Gamesの「Fortnite」だが、同アプリを始めとしたEpic Gamesや他社のゲームを提供するゲームに特化したアプリマーケット「Epic Games Store」。アプリ販売の手数料も、App Storeより少しだけ安めに設定されている
まずは、EU圏でのアプリ代替ストアの動きから見てみよう。
EU圏では現在、2種類のアプリ代替ストアが稼働している。先にサービスを開始したのは「AltStore PAL」で、2024年4月に早々とサービスを始めている。初のポルノアプリとなるHot Tubを提供したのも、こちらのストアだ。
もう1つは、「App Store」に対して問題を提起し、裁判を行った人気ゲーム「Fortnite」で有名なEpicの「Epic Games Store」だ。
Epic Games Storeは、サービス名からも分かるようにゲームの提供に重点を置いている。App Storeでの提供が中止された人気ゲームのFortniteはもちろんだが、他にも「Rocket League Sideswipe」など同社の人気ゲームを提供し、今後は他社のゲームも提供したいとしている。
AppleのApp Storeは、売り上げに対して15%(大企業からは30%)の手数料を徴収しているが、Epic Games Storeではそれよりも少し安い12%の手数料を徴収する。
話題が豊富なのは、AltStore PALだ。実はこのサービス、iPhoneの正式な代替アプリストアとしての運用は2024年4月からだが、そのはるか前の2019年からの5年間、Apple非公認の代替アプリストアとして運用してきた実績がある。
iOSに「脱獄」(Jailbreak)と呼ばれる改造を施して、Appleが公認しないようなアプリの利用を可能にしていたのに加え、最近ではAppleが開発中アプリのテスト目的で提供している機能を利用して、アプリの配布を行ってきた。
EU圏の「The Digital Markets Act」(デジタル市場法)施行により、晴れて正式に代替アプリストア「AltStore PAL」としてのサービスを開始した(これに合わせて従来のAltStoreは「AltStore Classic」と改名された)。
ストアを作ったのは、Riley Testut氏という個人開発者だ。オープンソースコミュニティーで活躍しており、ストアの開発コードもオープンソースで公開している。
ユーザーからの寄付やPatreonという送金システムを通じて資金を調達しており、アプリの配布自体には手数料を課していない。
これはパソコン時代におけるフリーウェア/オンラインソフトウェアを思い出させる(フリーウェア/オンラインソフトウェアは、個人開発者などがオンラインで直接提供するソフトウェアで、多くの素晴らしいソフトウェアを生み出した一方で多くのマルウェアもあった)。
では、AltStore PALでは、App Storeで入手できないどんなアプリが手に入るのだろうか。Epic Games Storeより早くオープンしたため、当初はFortniteも提供して人気コンテンツとなっていたが、最も代表的なのは任天堂エミュレーターアプリの「Delta」、iPhone上でコピー&ペーストした内容を記録し続ける「Clip」ユーティリティー(過去にコピーした内容を再度ペーストし直したりすることができる)、いずれもTestut Techという会社名で登録されているが、Riley Testut氏が個人で開発したものだ。それらに次ぐ第4の目玉アプリとなるのが、今回リリースされたHot Tubだろう。
Deltaは任天堂のゲームボーイアドバンス用のゲームを、iPhone上でプレイ可能にするエミュレーターに分類されるアプリだ。もし、このアプリの開発に、任天堂が著作権を持つコードが使われているとなると違法だが、そうでなければ合法という判決が米国やEU圏での過去の裁判で出ている。
ただし、当然ながら任天堂のゲームボーイアドバンス用として販売されていたゲームのROMを勝手に流通させることは違法だ。任天堂もこうした行為には目を光らせている。
AppleはApp Storeで、こうしたエミュレーターの配布を禁止していた。他の機器の動きをエミュレーションできるということは、つまり、Appleのチェックを受けていないプログラムを実行可能ということであり、これがマルウェアの温床になることを懸念したのも一因だ。
ゲームエミュレーターは人気が高く、旧AltStoreの利用を促す一番の要因の一つでもあった。
AltStore PALの作者であるRiley Testutが開発した、任天堂ゲームボーイアドバンスのエミュレーター「Delta」。実はAltStore PALのサービススタートと前後して、Apple公式のApp Storeでも提供が始まっていた
そのような中で、Appleも対策を取る。エミュレーターそのものがマルウェアに侵されても、それが他のiPhoneアプリに及ばないようにする技術なども整ってきたことから、2024年4月にはApp Storeのガイドラインを緩和した。
合法的なものであることや、ユーザープライバシー保護ができていることなど厳しい条件をクリアすれば、公式のApp Storeでもエミュレーターを配布できるようにした。実はDeltaも、AltStore PALのオープンとほぼ同時期にAppleのApp Storeからも入手が可能になっている。
ただし、ポルノアプリとなると話は別だ。
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