「私はただのジョニー」と語るジョナサン・アイブ氏が「シリコンバレーは奉仕の心を失った」とIT業界に警鐘を鳴らす理由(3/4 ページ)
OpenAIがジョナサン・アイブ氏のスタートアップ企業「io」を買収して話題を集めた。そのアイブ氏がイベントで語ったことを林信行氏がまとめた。
KPI(数値)は真実の一面しか伝えない
Appleの音楽プレイヤー「iPod」人気が絶頂だった2004年頃、他社からさまざまなiPod用ケースが販売される中、遂に待望のApple純正iPodケースとして発表されたのが「くつ下」を連想させるコットンニットのケース、「iPodソックス」だった
コリソン氏はデザインの方向性についても議論を広げた。Appleの製品はしばしばミニマル、シンプルと表現されるが、ピクサーのランプのような首を振るiMacやiPodソックスなどユーモアにあふれる製品もあったと振り返り、「デザインにおける喜びの役割とは?」と質問を投げかけた。
アイブ氏は「人々が犯す間違いの1つは、シンプルさを単に雑味を取り除く行為だと考えていることです。それは単に製品を整えているだけで、生気を失った魂のない製品に仕上がってしまいます」と説明した。
シリコンバレーやテクノロジー業界では喜びとユーモアが欠けており「喜び」が取るに足りないものとみなされる傾向があるとアイブ氏は言う。
「作り手の心の状態、デザイナーの仕事への取り組み方は、最後には製品に表れてしまいます。私が不安であれば、製品にもそれが出てしまいます。だから、製品の作り手が希望と楽観に満ちている状態で、人間関係もそうなっていることが大事です」とした。
一方、アイブ氏をいらだたせていたのが製品価値を数値で計測するやり方だ。「製品の議論ではスケジュール、コスト、速度などの話が支配的になります。数字での比較は誰にでも理解できるため議論が客観的な数値に偏りがちです。しかし、デザイナーやクリエイターの貢献は数字では測定できません。それゆえに軽視されてしまうのです」として、会議で意見を述べても「それはあなたの意見でしょう」と言われてしまうとアイブ氏は指摘する。
「デザイナーやクリエイターの貢献は製品に楽しさを加え、使う時間を喜びに満ちたものにします。道具は楽しく喜びに満ちていれば、より多く使われる傾向にあります。こうしたことは計測できる価値と等しく重要です」と付け加えた。
私たちが使う言葉は考え方に影響を与える
1時間のセッションは金言に満ちていた。その一部を紹介しよう。
- 製品開発における「スピード」と「品質」のトレードオフについて
できれば両方実現したいところですが効率的に働くことに美しさがあるし、息をのむような品質のものを短時間で創ることも可能です。私たちが使う言葉は考え方に影響を与える、速度と品質を対立概念としてではなく、いかに効率的に働きつつも最高の品質を生み出すかと考えることが大事です
- 組織の巨大化と意識共有の難しさについて
組織も本の章立てや季節のように移ろうものですが、変化の中で「何を妥協しないか」を明確にすることが重要です。「原則、価値観、動機に明確に焦点を当てる」のが大事なのです
- 美の主観性と客観性について
両方の側面がありますが、そもそも何かが機能しなければ、それは醜い。オブジェクトに宿る「人間性」の感覚こそが、美しさより信頼できる道標になります。私は人に製品から「配慮」を感じ取る能力があると信じています。「この製品は配慮が欠けている」という感覚なら分かりやすいでしょう。配慮を感じ取る能力も、その延長線上に確かにあり、だからこそ、見られにくい製品内部まで丁寧に仕上げることにこだわるのです。私たちがいかに人間として進化したかの証は、誰も見ていないときに何をするかなのです
- テクノロジーの「意図せざる結果」について
これが最も気にかけていることで、意図せざる結果にも責任が必要です。産業革命時代も技術革新は社会に影響を与えましたが、当時は変化に適応する時間がありました。現代は変化の速度が危険なほど速いです。AIについては安全の議論が最初から活発なことに希望を感じる一方で、ソーシャルメディアは長年懸念が議論されなかったことに「いらだたされて」います
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