Appleが「スマホソフトウェア競争促進法」に12の提案 iPhoneの安全性はどうなる?(2/2 ページ)
公正取引委員会による「スマホソフトウェア競争促進法」についてのパブリックコメント募集が締め切られたのに合わせて、Appleから意見書が提出された。これらの動きについて、林信行氏が状況を整理した。
決済の安全性も重要な課題
今後、そうした不都合が増えるたびに、ユーザーは消費者のためではなく企業の都合で作られた法律が可決されるのを許してしまったことを後悔することになるのかもしれない。
Appleが、もう1つ懸念しているのは、スマホ新法が決済の自由も要求していることだ。同社は最近、2024年の1年だけで470万枚の盗難クレジットカードの使用を検出・遮断し、アカウント160万件以上を取引停止にしたと発表している。阻止した不正取引額は20億ドル(約2900億円)、5年で90億ドルにのぼったことを公表している。
これは、Appleが気付かなかったことにすれば、懐に入っていたかもしれない日本の国家予算の1%ほどに迫りそうな額を受け付けなかったということでもある。世界的に信頼されているブランドなのだし、当然といえば当然だが、スマホ新法以後にiPhoneで決済を提供するのは必ずしもそうした信頼されたブランド企業だけではなくなる。
いわゆるアプリ内課金の仕組みに加え、家族でApp Storeで購入したアプリを共有する仕組み、子どもが自分のiPhoneやiPadのApp Storeから欲しいアプリをねだると、親のiPhoneにそのリクエストがいき、親が購入の承認や拒否ができるといった仕組みも用意されている。
しかし、スマホ新法がどのような形で実装されるかによっては、こうした機能の提供方法も見直しが必要になるかもしれない。
Appleによって提出された26ページの意見書では、下記の表に挙げた12の提案が行われているが、詰まるところは代替アプリストアや代替決済手段、そして代替ブラウザを認めることで生じるリスクを最小限に抑えることが認められるべきというポイントと、自社技術への投資に対する「公正な収益」を得る権利の主張だ。
日本のiPhoneの安全性は政府の決断にかかっている
世界中の人々が瞬時に無料でコミュニケーションできる、人類にとっての福音と喜ばれた電子メールも、今では迷惑メールや詐欺メールが多く、すっかり信頼できない“メディア”になってしまった。Webページも一時は「世界の知にアクセスできる」と、多くの人に未来の夢を見せたが、今では怪しい広告や詐欺まがいのサイトがあふれている。
われわれ日本人は、これまでしっかりと管理されていたからこそ快適に使えていたスマートフォンまで、そのようにしてしまうのだろうか。
そもそも、より自由にさまざまなアプリやサービスを利用したい人にはAndroid、管理された安全な環境でスマートフォンを使いたい人にはiPhone、というきれいなすみ分けができていたのに、それを崩してiPhoneまでAndroidのようにすることはユーザーの選択肢を奪ってしまっていないだろうか。
6月24日には、日本でそのiPhoneにマイナンバーカードの機能が利用可能になる見込みだ。これは世界でも最も先進的な事例で、うまく活用されれば、交通系ICと同様に世界に誇れる事例になる可能性もある。
しかし、あまりにも企業の自由を優先させると、それによって生じたほころびによって、とんでもない事態になる可能性もある(マイナンバーカードの情報そのものは安全でも、それでもユーザーのプライバシーを脅かす方法はある)。
ぜひとも、日本政府には国民こそを第一に考えた賢明な法制化を期待したい。
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