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「人間型ロボット」「アバター」がAIと出会うと何が起こるのか? 大阪・関西万博「いのちの未来」プロデューサーが語る“アバターと未来社会”「NEW EDUCATION EXPO 2025」特別講演(3/3 ページ)

6月5日から7日かけて行われた「NEW EDUCATION EXPO 2025」において、大阪大学大学院の石黒浩教授(基礎工学研究科)による特別講演「アバターと未来社会」が開催された。事前申し込みの段階で満員だった本講演の内容を、2回に分けて紹介する。今回は、人間型ロボットやアバターを研究/開発する目的、LLM(大規模言語モデル)が登場したことによるロボット/アバターへの影響と、これからのインターネットについて語った部分を紹介する。

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アバターは一度衰退 しかしコロナ禍によって必要性が再認識される

 続けて、石黒教授はアバターの歴史について説明した。

 アバターとは、人が直接操作せずとも、AIに意図だけを伝えて仕事を任せることができる存在だ。私は1999年にTV会議システムと移動台車を組み合わせた、ごく簡単なロボットアバターを提案した。(これは)現在でもよく見かけるタイプで、当時としては画期的だった。

 その後改良を重ね、自分自身の姿を模したアバターの開発にも取り組むようになった。2010年頃に世界的なアバターブームが起こり、多くのスタートアップが立ち上がった。簡易なアバターを使ってテレワークを普及させようという動きだったが、結果的にブームは一過性で終わった。当時はリモートワークが一般的に受け入れられておらず、シリコンバレーですら失敗に終わった。アバター関連の企業は次第に活動を停止し、開発も止まってしまった。

初めてのロボット
石黒教授が1999年に作った遠隔操作ロボット

 一度は衰退してしまったアバターの開発だが、コロナ禍がその状況を一変させたという。

 ところがコロナ禍によって状況は一変し、リモートワークが社会に定着して、アバターの必要性が再認識されるようになった。私はこのタイミングを見て、4年前に「AVITA」というスタートアップ企業を立ち上げた。さまざまなタイプのアバターを開発し、世界に広めたいという思いで活動している。

 例えば私そっくりのアバターは、子ども達には少し怖く感じられるようで、特に自閉症の子どもたちには不向きだ。しかし、かわいらしいデザインのロボット型アバターなら、子どもたちも安心して話してくれる。用途に応じてアバターのデザインや性質を変えることで、より多くの人と自然に関われるようにしている。

 一方で、メタバースはいまひとつ普及していないが、これはまだ技術的な制約によるものだ。コンピュータの性能が向上し通信環境が整えば、メタバースの利用も一気に広がるだろう。そこでもアバターは活躍の場を広げていくと確信している。

 私はこれからもアバター技術の可能性を信じ、開発を続けていきたいと思っている。

ジェミノイド
石黒教授をモデルにしたアンドロイド「ジェミノイド」は、人間を超える知覚能力と表現能力を持つ
家庭内のロボット
家庭の中のかわいらしいロボット
メタバース
メタバースの中のアバター

インターネットの世界は“非対称”に 炎上防止にもつながる

 さらに石黒教授は、これからのインターネット世界の変化について、次のように予測した。

 これからのインターネットの世界は「同じ情報を全員に共有する」時代から「個別最適化された非対称の世界」へと大きく変わっていくと、私は確信している。例えば私がXで発信した文章は、小学生から高齢者、技術者までさまざまな人が読むが、同じ内容では伝わり方に差が出る。情報は受け手に合わせて調整されるべきであり、同一の情報が公平という考え方はもう通用しない。

 このことはメタバースも同様で、全員が同じ世界を見る必要はない。人間らしいアバターを見たい人にはそう見せ、かわいいアバターが好みならそれを表示すればいい。私のキャラクターが登場する場合でも、見る人が怖く感じるなら表情をマイルドに変えればよい。

 これは仮想空間だけの話ではなく、現実世界でも同様の変化が起きる。その鍵となるのが「AR(オーギュメンテッド・リアリティ)技術」だ。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使えば、現実空間にCGキャラクターを登場させたり、相手の表情や容姿を自分好みに変えたりできる。例えば相手が笑っていなくて話しづらいときに、HMD越しに全員の顔を笑顔に見せることも可能だ。将来は化粧さえ、自分が相手を見る視点から調整されるものになるかもしれない。

 こうした非対称な情報伝達は、炎上を防ぐ上でも重要だ。同じ文面を多くの人に送ると誤解や反発を招く可能性があるが、AIが相手ごとにメッセージを変換することで円滑なコミュニケーションを実現できる

 私はこうした未来社会の実現を目指し、内閣府のムーンショットプロジェクトに参加している。2050年を目標としたこの国家的研究開発プロジェクトでは、10のゴールが定められており(注:当初は7つで後から3つ追加された)、私は1番目のゴール「アバター共生社会の実現」を担うプロジェクトマネージャーの1人として活動している。アバターを活用して身体や時間、空間の制約から人を解放し、誰もが自由に学び、働き、生きることのできる社会を目指す。

 私は、高齢者や障害者も含め、全ての人が拡張された認知/知覚能力を使って自在に社会参加できる未来を実現したいと考えている。

ムーンショット
石黒教授は、内閣府の「ムーンショットプロジェクト」における1番目のゴール「2050年までに人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するアバター共生社会」のプロジェクトマネージャーの1人として活動している

 ここまででも盛りだくさんだが、石黒教授の話はまだまだ続く。後編では、アバターによって変わる社会や生活のありようや、大阪・関西万博への取り組みについてまとめる。

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