> コラム 2003年12月3日 09:16 PM 更新

“究極のスキャナ”に見るエプソンのマニアックさ(1/2)

抜群の画質でフィルムスキャンができるようになった「GT-X700」。エプソンとキヤノンの製品思想の違いも見えてくる。

 この業界にはいくつかの禁句がある。といっても、スポンサーの製品を悪く言ってはいけないとか、極端に偏った批判はダメ、といった類のものではない(多くの読者の想像とは異なり、PC業界にはそうしたしきたりはほとんど無い)。それとは正反対に、製品を評価する上で、“もうこれで十分”“誰がこれ以上の高性能を求めるのだろう?”“まさに究極。ほぼすべてのユーザーがこの製品に満足できるだろう”といった、呆れ返るほどの賛辞こそ禁句である、と個人的には捕らえている。

 なぜなら1年も経過すれば、そうした言葉に何ら意味がなくなってしまうからだ。今では消費者側もPCとその周辺にあるテクノロジー業界の進化に慣れた感があり、誰も“充分”なんてことは言わなくなってきたが、それでもたまに「もうこれで十分」と思ってしまう製品がある。

 今年末の場合、それはセイコーエプソンの「GT-X700」において感じてしまった。もちろん、まだ改善の余地はあるだろうが、GT-X700はコンシューマー向けのフラットベッドスキャナとして、ひとつのマイルストーンとなり得る製品だと思う。そして実際に入手し、プライベートで使った今、声を大にしてこのことを伝えたい(もっとも、来年か再来年になれば、恥ずかしい宣言だった……なんてことになっているかもしれないが)。


10月31日発売のGT-X700。国内コンシューマー機としては初めて読み取り解像度を4800dpiに高めた

迷い無く選べる理由

 年末になってくると、各方面からその年に印象に残った製品を選んで欲しい、といった類の依頼がやってくることがある。携帯電話、プリンタ、ノートPCなどに混じって、フラットベッドスキャナに関してのコメントを求められることも多いが、他分野では迷い無く選べても、フラットベッドスキャナに関しては歯切れの悪い答えしか用意できなかった。

 なぜなら、条件付きでしかベストと言い切れない製品ばかりだったからだ。筆者はこれまで、歴代のキヤノン製フラットベッドスキャナを愛用してきた。キヤノンの製品は、画質面でも性能面でも今一歩の感あるが、スペックの割には安価だったためである。

 そもそも画質を求めると言っても、フィルムスキャンを行いたいならば、専用のフィルムスキャナを購入した方が、ずっと使いやすく画質面でも有利。光学回路が長く、ガラスを1枚通して読み取るフラットベッドスキャナには、自ずとフィルムスキャンの画質に限界がある。だから、少々安物ながら気に入っていた低価格フィルムスキャナを長い間使い続けてきた。

 ところが、フィルムスキャナ機能を持つスキャナの評価記事となると、そうした私的な使い方とは別に、第三者的に性能や機能を評価することになる。視点を変えて高性能のフラットベッドスキャナを求めようとした時、キヤノン製スキャナを選ぶか?というと、ここに大きな疑問符が付く。

 キヤノン製スキャナは伝統的に、あまり使わないと思われる設定項目を隠す方向でユーザーインタフェースを作っている。単に原稿を載せて、おまかせでスキャンするには良いが、ちょっと凝ったことをしようとすると、とたんに面倒だったり、不可能だったりする。コンシューマー向け製品として割り切っていると言えば、まぁそうなのだろうが、ユーザーに対してステップアップするパスも必要ではないだろうか?

 またウォームアップ時間やプレビュー時の初動の遅さなども、使っているとちょっとイライラしてくるポイントである。付属ユーティリティの自由度の低さや操作性も悩みの種。価格が安い分、全体的な作りも多少安っぽく感じる。特に透過原稿ユニットに取り付けるパッドの脱着法ときたら……、っと愚痴っぽくなってきたが、これだけ文句を言いながら、よく毎回、キヤノン製を選んできたものだと思う。

 もちろん、そうした不満が解決されないままになっている背景には、何かしらの理由がある。一方的にダメだと決めつけられない面もあるが、不満の数は決して少なくなかった。

 しかし、一方でエプソン製スキャナにも問題があった。最大の問題はフィルムの傷やホコリを除去するハードウェアが搭載されていなかったことである。いくらスキャナとしての能力が高くとも、現在のフィルムスキャナに不可欠な傷取り機能がないとなると、オススメしようにも条件付きになる。

 エプソンは「GT-9700F」「GT-9800F」と、非常に優れた製品を出してきた。ウォームアップが短く、プレビューも本スキャンも軽快に動作する。1台購入しておけば、当面は新しい機種を必要としなかっただろう。またGT-9800Fでは、元々評価の高かった「EPSON TWAIN」が、より高機能でユーザーの間口を広げた「EPSON Scan」に進化している。しかし、ハードウェア補助のある傷取り機能、価格差などを考えると……と、いった評価になってしまう。

 しかしGT-X700には、ハードウェア補助による傷・ホコリ除去機能「Digital ICE」がやっと追加された。GT-9800Fにもドライバレベルの傷、ホコリ除去機能が備わっていたが、効果は今ひとつ。ケースバイケースだが、“これならスキャン後、手動で修整した方がいいんじゃ??”と感じる不完全なデキだったが、やっと他社と比肩するところまで追いついた。

 唯一の弱点がなくなったおかげでオススメ製品で悩まずに済む。今、後悔無く高画質かつ高速なスキャナを購入したいなら、多少の予算オーバーを許容してでもGT-X700を選ぶことを勧めたい。

ちょっと褒めすぎ?そうでもない

 絶賛するだけでは情報にならないので、GT-X700についてもう少し詳しく触れておきたい。本機で最も大きく変わったのは、心臓部となるイメージを読み取るセンサー部と、センサー部に像を導く光学回路の部分である。

 センサー部は2列のラインCCDを千鳥配列にしたハイパーCCD構造にマイクロレンズを付加したα-Hyper CCDで、最高光学解像度は4800dpiに達する。通常、ここまで高精細なラインCCDとなると実効感度が問題になるが、本機の読み取り画像はS/N比が良い。その秘密は、新設計のレンズによる部分が大きいという。

 また高濃度のカラーフィルターと高輝度光源、16ビット読み取りのA/D変換部などにより、ダイナミックレンジはポジフィルム以上。35ミリスリーブで24コマを一度に読み取れる大サイズの透過原稿ユニットも標準装備している。中判も6×12サイズを3枚並べることが可能。一部の特殊なパノラマカメラを除けば、ほとんどの場合で不足を感じることはないだろう。

 しかもノイズや色再現性、解像力を含め、フラットベッドスキャナの域をはるかに超えた画質なのだ。専用スキャナを用意しなくとも、手軽にフィルムを読み取れるのがフラットベッドスキャナの良いところだというものの、手間をかけてデジタル化するのだから、可能な限り高画質であってほしい。

 手元にあった「CanoScan FS4000US」(フィルム専用スキャナ、4000dpi)と、同じ画像をスキャンしてみたが、好みが分かれる色はともかくとして、解像感やノイズの少なさはGT-X700の方が上だった。できれば、最新の、そしてワンランク上のフィルムスキャナとも比べたいところ。

 もちろん、GT-X700はフラットベッドスキャナなのだから、もう少し違った視点でも評価したいところだが、近年のハイエンドスキャナ、特にエプソン上位機種は通常のフラットベッドスキャナとして、ほとんど不満のないレベルにまで達していた。そのせいもあってか、GT-X700は“反射原稿も読める”フィルムスキャナと言いたいほど、フィルムスキャンにこだわった製品である。

 ここ数年、我が家に追加される新しい写真リソースは、そのほとんどがデジタルになってしまった。これから趣味の写真が少しずつ追加されるとしても、中判以上のフォーマットになるだろう。35ミリフィルムを使うぐらいならば、デジタルカメラを選ぶと思うからだ。とするならば、GT-X700は我が家にとって「もうこれで充分な、究極の」フラットベッドスキャナとなるだろう。決して褒めすぎとは思わないデキである。

私的、エプソン論、キヤノン論

[本田雅一, ITmedia ]

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