エコシステム拡大に拍車がかかる!? iPhone OS 3.0とiPhone 3G Sのインパクト:神尾寿のMobile+Views(3/3 ページ)
全世界で4000万台を超えたことが明らかにされたiPhone/iPod touchの出荷台数。そのエコシステムにiPhone OS 3.0とiPhone 3G Sが加わることで、さらに拡大が進むことは想像に難くない。ほんの2年ほど前に発売されたばかりのiPhoneは、今や社会インフラになり得るポテンシャルを持つ。
まず、iPhoneシリーズの真骨頂は、搭載された機能の性能や先進性ではなく、それが「多くのユーザーが使いこなせる」洗練されたUIにくるまれているところにある。今回の新機能でも、300万画素AFカメラはタッチパネルUIと見事に調和し、指先でフォーカスポイントがすばやく決められるなど使い勝手がよさそうだった。動画撮影も、単に撮影するだけでなく、その編集やYouTube・MobileMeでの共有、メール添付など一連の操作体系がとてもスムーズに作られており、“誰でも使いこなせる”ように腐心されている。機能や性能が宝の持ち腐れにならないのが、iPhoneのいいところだ。電子コンパスや音声コマンドも、きちんと利用される内容に仕上がっていた。
さらにもう1つ重要なのが、これら新機能が「今後のアプリで活用されていく」という点だ。3Dゲームでの活用領域が大きいOpenGL ESはもちろんのこと、強化されたカメラ機能や電子コンパスを利用した新アプリや新サービスが続々と登場してくることは容易に想像できる。なにしろ、iPhone 3Gのチープなカメラでさえ、多くの周辺アプリが登場したのだ。iPhone 3G Sで強化された機能が、多くの開発者によって活用されていくのは間違いないだろう。これがiPhoneの持つ“エコシステムの力”とも言える。
そして何より、「速いこと」と「メモリー容量が大きいこと」は単純にユーザーメリットにつながる。iPhoneは購入した後に、ソフトウェアやアプリで機能強化されていくので、ハードウェアスペックには余裕があった方がいい。その点でiPhone 3G Sは隙のないビッグマイナーチェンジを果たしている。今から買うならば間違いなくiPhone 3G Sがお勧めだろう。
日本のモバイルICT産業にとってもチャンス
今回のWWDC 2009取材を通じて、筆者は1つの感想をずっと胸に抱いていた。それは「iモードバブルの頃に似ているな」という印象である。1999年から2002年頃まで日本ではiモードを筆頭とする携帯コンテンツ/サービスのエコシステムが急拡大し、社会やライフスタイルを変えるインフラとして成長した。その際に多くの新興企業が台頭し、モバイルICT産業を形成していった。
WWDC 2009の会場に漂っていたのは、まさしくあの時の空気感だ。iモードの時のように、巨大なモバイル情報プラットフォームが誕生し、社会に浸透しようとしている、その上で、新たなサービスやビジネスが成長しようとしているのだ。しかもiモードの時と違い、iPhone/iPod touchはグローバルに展開している。ビジネスとしての潜在的な規模と可能性は、iモードバブルの頃を凌駕するだろう。
これは日本のモバイルICT産業にとっても、見逃せないチャンスである。
日本ではiモードをはじめ携帯キャリアのエコシステムがすでに存在しているが、日本市場の今後を見据えると、これまでの10年と同じ規模の成長が単純にできるかというと、それは難しいだろう。今後は、ユーザーの利用規模そのものが大きくは拡大しないからだ。
しかし、その一方で、これまでの10年のノウハウや実績をもとに、iPhoneという新たなエコシステムに参入するとしたら、かなり有利なビジネス展開が可能であると筆者は考えている。特に今回のiPhone OS 3.0やiPhone 3G Sで強化された、位置情報や電子コンパス、カメラ機能の活用といった機能領域は、日本企業の得意とする分野である。iPhone市場は、日本勢にとって有利な方向に発展しているとも言える。
日本市場でもiPhoneプラットフォームは急拡大しており、それ以上のスピードで、グローバルでのiPhone市場は拡大している。この新市場への参入を、日本のモバイルICT産業は積極的に検討するべきであろう。
新OSと新型の影響は「じわりと広がる」
iPhone OS 3.0と新型iPhone 3G Sは、昨年の「iPhoneフィーバー」のようなお祭り騒ぎにはならないだろう。だが、これらはiPhoneのエコシステムを拡大・充実させて、モバイルICT市場で影響力を増していく。そのインパクトは、日本市場も含め世界中でゆっくりと、だが着実に広がる。
この1年でiPhoneのエコシステムは光のような速度で拡大したが、そのスピードは次の1年でさらに加速しそうである。日本市場、そして何よりグローバル市場でのiPhoneから今後も目が離せそうにない。
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