ドコモ“2年縛り明け”を狙い、攻勢に転じたau:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
ここのところ元気がなかったauに、復活の兆しが見られる。10月19日に発表された2009年秋冬モデル、そして2010年春モデルに、auは台風の目になる可能性を見た。今年度の下期は端末市場が活性化するシナリオも考えられる。
指定通話定額など料金施策も好調──ドコモの対抗策に注目
こうした新モデルラインアップの布陣に加えて、もう1つ今期のauの現実路線と言えるのが、料金値下げを率先して打ち出していることだろう。先行して導入した指定通話定額は好調であり、9月の純増数およびMNP競争におけるau躍進に大きく貢献。今回のガンガンメール導入は、割安感を求めるミドルユーザー層の取り込みに有利に働くだろう。また、ここ最近のauの値下げ攻勢で、料金競争において“ドコモとソフトバンクモバイルが後手に回っている”というイメージが広がる効果も無視できない。
これまで不振だったauが、復活し始めている──。これは9月、全国各地で見られた兆候だが、今回の新モデル投入でその流れはさらに加速化しそうだ。
実際、au復活の傾向は9月の純増数やMNP流出入の数字にも表れており、ドコモなどライバル他社は警戒感を強めている。あるキャリア幹部は、「(2009年)9月はこれまで低く抑えられていたドコモの解約率が上がっている。(2年利用契約の)ファミ割MAX50やひとりでも割50の満期が始まったが、指定通話定額の影響で、これまで少なかったauへのポートアウトが急増している」と話す。とりわけ東京以外の地域では、ドコモ Vs auの色が濃くなってきている。
「地方でのソフトバンクモバイルは純減基調。話題になっているiPhoneは東京など一部の大都市でしか売れず、iPhone以外の通常モデルの競争力がかつてほど高くない。一方で、(ソフトバンクモバイルは)地方・郊外のエリア拡大ペースが著しく落ちたので、これらの地域でユーザーの信頼を失っている。復活してきているauが、ライバルだ」(ドコモ地域支社幹部)
皮肉なことに、ソフトバンクモバイルはiPhoneに注力した結果、全国でのシェア拡大に急ブレーキがかかってしまった。一方で、auの料金面の攻勢と、それに続く現実路線の新ラインアップ攻勢は、今年の冬商戦・春商戦を激しくし、結果として端末市場の活性化に貢献しそうだ。特に注目なのは、こうしたauの攻勢に対して、ドコモがどう対応するか、だろう。稼働シェアの大きいドコモは指定通話定額の対抗導入による収益減が大きく、あまりにダメージが大きい。そのため“2年契約の継続で端末販売価格を下げる”キャンペーンを打ち出す可能性が高い。
そのテストマーケティングともいえる動きが、すでに見られている。今年の夏商戦後期に見られた「N-03A」の販売台数の急上昇だ。これは一般的には新色追加の効果とされているが、実際は「ドコモが特例的にキャンペーン費用を上積みし、(N-03Aを)安売りした効果」(大手位販売会社)である。その成果は上々であり、9月のファミ割MAX50・ひとりでも割50ユーザーの他キャリア流出抑制効果も認められたという。auの料金・新モデルの攻勢による影響が大きければ、N-03Aの例で見られたように、ドコモが特例的なキャンペーン費用を用いて店頭での端末販売価格を押し下げる公算が大きい。今年度の下期は端末市場が活性化するシナリオも考えられる。
冬春商戦のauは「台風の目」
筆者は2009年9月中旬まで、今年の冬商戦・春商戦に本格化する「2年利用契約」満期による商戦は、ドコモの不戦勝だと予想していた。それはドコモのサービス品質や顧客満足度の高さはもちろんだが、“auが弱すぎるから”という評価による予想だったというのが偽らざるところだ。ソフトバンクモバイルのiPhoneは、都市部ではキャズムを越えつつあり注目だが、全国で見れば市場全体に及ぼす数量的なインパクトは小さい。auが弱い以上、ドコモの不戦勝であり、「市場は大きく動かない」という予想だったのだ。
しかし、9月の市場動向データとキャリア/販売会社幹部など業界関係者へのヒアリングの結果、そして今回のau新ラインアップにおける戦略を総合的に判断すると、筆者の8月時点での予測は大きく変える必要がありそうだ。auは復活しつつあり、冬商戦・春商戦の「台風の目」になる可能性がある。特に利用料金と端末販売価格で攻勢をかけるインパクトは大きい。auの復活は全国での競争拡大・シェア争いの激化につながり、市場を活性化する効果がある。
今年の冬春商戦は、激しいものになりそうだ。
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