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ITは「もっと自由で勝手で、ばかばかしくていい」 ポストペット八谷氏×セカイカメラ井口氏サイエンスフューチャーの創造者たち(2/4 ページ)

ソーシャル、AR、サイコミュ――。ポストペットの生みの親としても知られるメディアアーティストの八谷氏と、セカイカメラ生みの親である井口氏の対談は、八谷氏の作品に対する考えから、日本のネットビジネスに対する思いまで、さまざまな話題が飛び出した。

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ビジネスも「ばかばかしくていい」

photo 「見ることは信じること」(1996)

井口 Webの世界って能率主義で、例えばたくさんの人の日記があったら、それをどう抽出するかとか、どう便利に並べるかとかを考える。けど、八谷さんの作品はそういった効率性を必ずしも追求していないですよね。「見ることは信じること」なんて、わざわざ日記を肉眼では見えない電光掲示板に出して、しかもそのビュワー装置が羊(※1)という……あれはなんで羊なんですか?

※1 「見ることは信じること」は、肉眼では見えない赤外LEDの電光掲示板を「ヒツジ」と名付けられたビュワーでながめる作品。電光掲示板にはメガ日記の文章がとめどなく流れる様子が映し出されていた

八谷 あれは単純に、当時「星の王子さま」を読んでいいなと思っていたので。

井口 ああ、なるほど。

八谷 あの作品に関しては、そもそも技術的なアイデアが先行してたんです。試作で電光掲示板に肉眼では見えない赤外LEDを仕込んで、それをビデオカメラで見たら、肉眼で読めない文字がすごいちゃんと見えて、そのギャップが面白いと思って。で、大型化しようというときに、ビュワーが普通のカメラじゃいやだなと。

 中身もそれを見せるディスプレイも不可視であるということと、ビュワーのデザインを結びつけようと思ったときに、「星の王子さま」が頭に浮かんだんです。「そういえば、大切なものは目に見えないってセリフがあったなぁ」って。

 こんなふうに、僕のアーティストとしての活動は、その時興味があることがごっちゃになって結実するという感じですね。思いついたときに思いついたことをやっているだけなんです。ラピッドプロトタイピング的というか、まず動くモデルを作ってから後のこと考える。なので、会社を正しく運営するとか、マネタイズのこととかに関しては今でも自信がない面があって、どのくらいのバランスで進めるのか、これまではなんとなくなりゆきでやってきたけど、これからどうだろうって思います。

井口 こういう言い方がいいのか分からないけど、八谷さんがビジネスで成功するかしないかを仮に抜きにしても、メディアアートをやられてる八谷さんや空を飛んでる八谷さんに世の中が刺激を受けて、例えば今5歳の子が20年後にすごいことをやらかして、世の中が良くなればいいなと、すごく思うんですよ。

八谷 ああ、なるべくそうあるようにと思ってやってきてます。本望ですそれ(笑)。というか、すごく正直な話をすれば、自分のフォロワーが思っていたより少なかったという敗北感もときどき感じていて(笑)。だから、井口さんがアートに興味があったり、学生の時に哲学をやってたり、タイムシフト系じゃない独自のサービスをやっているのって、素晴らしいことじゃないかなと思います。

井口 いや、ホントに僕、メガ日記にはすごくインスパイアされましたから! でも、世間一般の常識からすると、ビジネスをする上で“ちゃんとしなくちゃいけない”って意識が強いのは確かですね。会計士に見てもらい、赤字は垂れ流さず、経営者は言動に気をつけなきゃいけないといったような。でも、実は相当なことやっても人間死ぬことはないんですよ。逆に、当たり前のこと、レールに乗ったたぐいの仕事をしたって上手くいかないのがベンチャーシップです。人がやらないことをやるとか、わけが分からないことでもいいからクレイジーに走るとか、そういうことで上手くいく側面がある。

 哲学やアートも根っこは同じだと思うんですけど、人の視点や発想を根本から切り替えるべきというか。ビートルズだってアンディ・ウォーホルだってそう。もっと自由で勝手で、ばかばかしくていいと思うんですよね。

八谷 アートだけでなく、ビジネスもそうあっていいはずなんですよね。なんだかんだいってアメリカが革新的なビジネスやカッコいい企業を生みだすのは、言い方はなんですが“バカを許容する文化”があるからだと思う。

井口 Twitterだって相当バカですよね。普通だったら絶対倒れちゃうようなものに、やみくもにものすごい金つっこんで、クレイジーだと思いますよ。一歩間違うと、Twitterは行為そのものがメディアアートだと感じます。

「ガンダム」が潤滑油となり生まれた「Psycomu(サイコミュ)」

photo 「Psycomu」(2005)

井口 クレイジーという点では、八谷さんはPsycomu(サイコミュ)も作品にしていて、あれなんか相当面白い(※2)。等身大ガンダムは物として分かりやすいですが、アニメの中にあるシステムを実際に再現してしまうっていうのは、等身大よりもよっぽど衝撃がある気がして。あの作品はどのようにして生まれたんですか?

※2 ガンダムシリーズの作中に登場する、脳波を使って機械を制御する装置の名前。フラナガン機関と呼ばれる研究所で開発されたという設定になっている。八谷氏は展覧会「GUNDAM 来たるべき未来のために」で、同装置をイメージした作品を手掛けた。作品は、電極を取り付けた参加者の歩行を別の参加者が視線の動きで遠隔操作できるというもの

八谷 発端は、当時NTTコミュニケーション 科学基礎研究所にいらっしゃった前田太郎さん(現大阪大学教授)とシンポジウムで一緒になって、前田さんの発表を見たことです。前田さんの研究発表がバツグンに面白くて。前田さんは端的にいうと人間をリモートコントロールする仕組みを作っていて、操作する相手がニュートラルな気持ちで歩くと、自然と操縦者の指示通りに歩いてしまうものでした。デモンストレーションでは無意識のうちにNTTのロゴマークに沿って人を歩行させてた(笑)。それを見て「スゲーッ!!」と思って。

 それで、僕は前田さんといつか組みたいと思っていたんだけど、でもメディアアートの世界でサイエンティストやエンジニアと組むとあんまり上手くいかないことがあるんですよ。サイエンティストやエンジニアのゴールと、アーティストのゴールって結構違ってたりするから。展示空間の中でどう見せるか、お客さんにどう体験してもらうか、機能説明をどのくらいするかとかで、意見が対立しちゃったりするんです。

 でもこれが「ガンダムの展覧会です」っていうと、ガチっと手を組めるんですよ(笑)。やっぱりお互いガンダム好きだったりするから。「これを使ってサイコミュを作ろう。で、僕らはフラナガン機関の中の人って設定にしましょう」って(笑)。それで作品を作る際には、「フラナガン機関の中でサイコミュが生まれる前にニュータイプの適性検査があって、実はその検査装置が後のサイコミュになった」みたいな裏設定までしました。ガンダムというキーワードが出てきた瞬間に、同じ方向を向いて仕事するフレームできるんです。

井口 それであんなアツいものが生まれちゃったんですね。

八谷 あれはもうちょっといろんなところで披露したいと思っているんですけどね。日本の大学の先生とかがやってることで、「このまま研究だけにしているのはもったいない」というものがいくつかあって。イノベーティブなことをやるときに、日本だとなかなか産業化しづらいと思うんだけど、あきらめずにやればなにかしらの場は作れるんじゃないかと思って。ガンダム展のようなキャラ展もその1つ。アートの世界において、キャラ展ってのは日本独自の形式なんですが、これは僕はすごい発明だと思ってて。いろんな人が組みやすいし、そこでホントに日本独自の革新的なものができる可能性はあると思う。

井口 僕は、アニメのストーリーワールドからもらえる気付きとかって、日本のビジネスやベンチャーシップにとって強みになると思ってます。それこそ、日本のロボットが二足歩行だったり、ペット系が多かったりするのは、アニメやマンガの影響が大きい。ビジネスプロデューサーのような人がテクノロジーとカルチャーの間を取り持ってコラボレートすれば、ビジネスとしてうまくいく気がするんですよ。

八谷 やはり、そういうことを座組みできる人が足りないんだと思いますよ。よく日本にはエンジェル的な投資家がいないって言うけど、その手前に、プランナーというか、ビジネスとしてまとめる人、あるいは「この人とこの人の技術を足すと、とんでもないものできるんじゃないか?」みたいな発想をする人が必要だと思う。

井口 アートの世界でいうキュレーションみたいなものですよね。オーガナイズして、パッケージとしてどう見せるかを練る人がいれば、もっと面白いことができそうな気がします。

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