救急医療現場で広がるiPad――「MCPCアワード 2012」のグランプリは「99さがネット」に
優れたモバイルソリューション活用事例を表彰する「MCPCアワード 2012」のグランプリに、佐賀県の医療情報システム「99さがネット」が選ばれた。救急車にiPadを導入し、急患受け入れ情報の共有を効率化する新システムが、救急医療現場に変化をもたらしている。
モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は4月20日、優れたモバイルソリューション活用事例を表彰する「MCPCアワード 2012」の各賞を発表した。グランプリは、iPadやモバイルネットワークを活用して救急患者の病院搬送を効率化した、佐賀県の医療情報システム「99さがネット」が受賞した。
今回で10回目の節目となるMCPCアワード。グランプリ候補として選出されたのは、Android端末を活用した中古車査定システム「インスマート」(カーセブンディベロプメント)、東日本大震災の被災地調査で活躍したAndroidタブレット端末による「被災建物調査支援システム」(国立大学法人 東北大学)、電子カルテの入力効率化や患者への医療情報説明に役立つ「iPadを利用した患者参加型 医療支援システム」(習志野台整形外科内科)、牛の体温をセンサーと通信モジュールを連携させて常時監視し、分娩を予報する「遠隔監視システム『牛温恵』」(リモート)、そしてグランプリを受賞した99さがネットだった。
佐賀県では現在、県内すべての救急車にiPadを導入しているという。佐賀県内では救急車で搬送される人の数が年々増加している一方、搬送先の病院を探す方法としては「救急隊員が各病院に電話をひたすらかける」しかなく、「搬送までに時間がかかる」「特定の医療機関に搬送が集中する」といった課題があった。急患受け入れ情報の共有システムもあるにはあったが、救急車にインターネット環境がなく参照が難しかったり、医療機関が多忙で入力率が低かったこともあり、真価を発揮できていなかった。
こうした中で佐賀県では、救急隊員に情報端末としてiPadを持たせ、救急隊員自らが急患受け入れの各種情報を入力し、共有できるシステムを構築した。救急隊員が症状や科目を選択すれば、搬送先の候補が自動的にリストアップされ、効率的に急患を搬送できるようになっている。また、医療機関だけでなく“受け入れ情報を最も求めていた救急隊員自身”が情報を入力できるシステムとしたことで、情報の入力率も高まり、利用率は約10倍に増えたという。この結果、搬送が集中しがちだった救命救急センターへの搬送割合が低下し、年々増加していた搬送時間も前年度から約1分の短縮を実現した。
MCPC普及促進委員長の武藤肇氏は、99さがネットが「公共性が高い」システムであること、「佐賀県だけでなく全国に普及しつつある」ことなどを、グランプリ受賞のポイントとして紹介。「社会インフラとして大きな意義がある」と賞賛した。同システムはすでに、香川、奈良、岐阜、群馬、栃木の5県が導入済みあるいは2012年に導入を予定しており、その他にも18の地域で導入の検討や視察が進んでいるという。
関連記事
- 「MCPCアワード 2012」のグランプリ候補が出そろう
モバイルを活用したシステムの導入で成果を上げている企業や団体・自治体を表彰する「MCPCアワード」のグランプリ候補が出そろった。4月20日、最終候補となった5つの事例の中からグランプリが決まる。 - 査定時間を短縮、買い取りビジネスのすそ野も広げる――スマホが変えた中古車査定、カーセブンの場合
“いまだFAXと紙と電話が主流”という中古車売買の世界を、スマートフォンで大きく変えようとしているのがカーセブン。Android端末とクラウドを組み合わせたシステムで、査定時間を3〜4割短縮。使いやすいアプリの提供で、買い取りビジネスのすそ野も広げている。 - Androidタブレットで業務を変える――個性派ぞろいの「Tablet Solution Award」受賞ソリューション
Androidタブレットで業務を変える――。「Tablet Solution Award 2012」の各賞を受賞したのは、そんな意気込みで開発されたソリューション群だ。 - モバイルの法人活用、クラウド活用がカギに――MCPCアワード 2011
モバイルの効果的な法人活用の事例を表彰するMCPCアワード 2011。クラウドとモバイルを連携させた事例が注目を集め、それをサービス構築と海外展開に生かした日産自動車がグランプリを獲得した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.