営業スタイルの改革を目指すアサヒビール、iPadが果たす役割は:SoftBank World 2012(2/2 ページ)
iPadの導入自体を目的化せず、課題を解決するためのツールとして活用。トライアルからスタートし、本格展開へ――。こうした“成功につながるポイント”をおさえつつ、営業スタッフの業務スタイルの改革を目指しているのがアサヒビールだ。
運用管理の容易さから「iPad」を選択
ここまでのプロジェクトにおいて、アサヒビールではiPad(Wi-Fi/3G)の導入と活用を進めているが、将来的にはAndroidタブレットも視野に入れたマルチデバイス、マルチOSでの展開を視野に入れているという。プロジェクト開始時点の端末としてiPadを選んだ理由について、越間氏は「コミュニケーションツールとしての有効性」と「セキュリティと運用管理の環境が整っていた点」を挙げた。
「営業先で顧客とコミュニケーションを取りながら提案を行えるツールとして利用するためには、タブレット型の端末であることが必要だった。また、セキュリティ上の要請などを達成するためには、端末の管理基盤、セキュリティ基盤、社内システムとの連携基盤がしっかりしている必要があるが、現時点でその環境が最も整っているのがiPadだと判断した。将来的に展開規模を広げていくにあたっては、マルチデバイスへの対応も視野に入れている」(越間氏)
システム上、運用上のセキュリティ要件については、現在支給されている業務用のモバイルPCと同等のセキュリティ水準を確保することを原則としつつ、今回のプロジェクトの目的に合わせた調整を加えている。
例えば、ネットワークについては、基本的にVPNを経由してインターネット上にアクセスするような仕組みを導入している。これにより、例えばWebフィルタリングなどは、社内の基準と同じものが適用され「社内で見られないWebサイトはiPadからも見られない」というポリシーが徹底されているという。また、ユーザーによるApp Storeの使用も現時点では認めていない。
一方で、オフラインの環境でも資料などが参照できるよう、端末内にデータをダウンロードすることは許可している。ただし、データ暗号化に加え、端末ロックやリモートワイプといったMDMの機能を用意することで、端末を紛失した場合などに、データが流出することがないよう考慮されている。
iPadでユーザーが利用するアプリケーションに関しては、事前に営業担当者の行動フェーズをイメージして、社内メールや営業日誌、飲料点データベース、情報検索、情報共有などに必要と思われるものをあらかじめインストールしている。業務に関連するアプリケーションについては、教育コストなども考慮して、現在社内で使われているWebアプリケーションをそのままの形で利用できるようにした。
社内メールとの連携やカタログコンテンツの配信などを実現するにあたっては、パブリッククラウドとして提供されているサービスを一部活用している。越間氏は「これまで、アサヒグループではシステムに関して、できるだけプライベートのものを使う方向性にあったが、今回のプロジェクトに関しては新たに利用方針を定めて、パブリッククラウドサービスについても活用していく判断をした」と話す。
導入するアプリケーションについては、今後も利用者のニーズを吸い上げ、必要に応じて定期的に見直しをしていきたいとしている。
「タブレットによって、どんな制約をなくすことができるか?」
この営業改革プロジェクトは、現時点で東京圏を中心にした150人規模での運用フェーズにある。今後、名阪地区へと展開範囲を拡大し、iPadを活用した営業改革の意識定着と実践を、さらに広めていこうとしている段階だ。越間氏自身は「やっとスタートラインに立てたところ」だと話す。
これまでの取り組みの中で感じたことのまとめとして、越間氏は「ユーザーサポートの重要性」と「通信環境の制約」、そして「PCとタブレットとの違い」といった点を挙げた。
ユーザーサポートというのは、端末配布時の利用マニュアルの提供や説明会の開催、問い合わせ・トラブル対応といったヘルプデスク的な役割の必要性に加えて、「社内に存在する利用推進者の力」の重要性だ。ユーザーの中で、積極的にプロジェクトにかかわってくれる協力者たちの力が、プロジェクト推進にあたって大きな力になっているという点を強調した。
また「通信環境の制約」は、どのような場所で活用されるかが想定しづらい営業ツールとしての性格上、どうしてもWi-Fi、3G通信が不安定になるケースも生まれており、今後の活用にあたって、いかに通信環境を確保するかについても検討を進めているという。
「PCとタブレットとの違い」は、PCでやっていることをそのままタブレットに置き換えるのではなく、タブレットならではの利用シーンをイメージするという、いわゆる「タブレットファースト」の考え方だ。
「ここまでやってきて感じたのは、タブレットならではの特長によって、これまでの業務に内在したどんな制約をなくすことができるかを考えることの重要性だ。タブレット端末の導入を進める中で、さまざまな部署や案件で『使いたい』という要望がでるケースもあるだろうが、そこで『本当にタブレットが必要なのか』を考えてみることが大切。もし、導入によるメリットを明確に示すことができるのであれば、iPadのようなタブレットはその実現に向けた大きな力になってくれるはずだ」(越間氏)
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