“紙を生かすタブレット”という新発想――反響呼ぶ、カシオの“全部入り”端末
タブレット端末を導入すると、つい、あれこれとデータを電子化しようとして失敗するケースもある。カシオの業務用タブレットは紙のよさを生かしつつ、デジタル化の恩恵も受けられるよう設計されており、そのコンセプトが注目を集めている。
ケースをパタンと閉じると、紙に書いた手書きのメモや資料が、画像データとして保存される――。こんな機能を備えているのが、カシオ計算機の業務用タブレット端末「Paper Writer V-N500」シリーズ(以下、Paper Writer)だ。
タブレットを導入する企業は、つい、紙のデータをあれもこれも電子化しようと考えがちだが、スキャナの接続が面倒だったり、貯め込みすぎて後回しにしてしまったりと、なかなか続かないケースもある。Paper Writerはそこに着目し、端末のインカメラで紙の資料を撮影するという手法で、手軽に紙の情報をデジタルデータとして取り込めるようにした。そしてこのデータ取り込み機能が、タブレット端末の導入を検討する企業の注目を集めているという。
このタブレット端末がどんな用途で注目され、どのような形で業務の効率化に貢献するのか。ITイベント「スマートフォン&タブレット2012秋」の同社ブースで説明員に聞いた。
紙をなくせない現場に、“紙+α”の付加価値を
「紙は必要で、すぐなくすことはできないが、保存するデータは電子データにしたいという現場で注目を集めています」――。こう話すのは営業本部 戦略統括部の深谷将郎司氏だ。あちこちで機器の検査を行っているある企業の場合、検査員が検査結果を紙に記載しており、会社に戻ってから保存しているという。このデータを電子化したいと考えているが、現場作業員のITリテラシーがまちまちなこともあり、いきなりタブレットに直接入力してもらうのは難しい状況だった。
ここで歓迎されたのが、データ取り込み機能だ。Paper Writerは、カバーを閉じる操作によるデータ取り込みのほか、ページをめくる動作に反応してインカメラのシャッターが下りて、多数の紙の資料を次々と取り込める機能がある。この機能を使えば、検査結果が記載された紙をめくっていくだけで、画像データとして端末内に保存できるというわけだ。
この企業のように、いずれはフルデジタル化したいと考えていても、すぐには難しいという場合に、過渡期の策として目にとまるケースがあるようだ。
公文書を扱う扱う企業も紙をなくせない現場の1つであり、ここでもニーズがある。営業本部 戦略統括部の中嶋健太郎氏によると、こうした企業は1日に取り扱う紙の文書の枚数が多く、これをコピーして綴じるための穴を開け、ファイルするという作業に手間がかかっているという。
紙は紛失したり破けたりする可能性があるため、デジタル化したいと考える企業も多く、容易な操作で画像化できるPaper Writerは引き合いがあると中嶋氏。ここでは、取り込みやすさに加え、取り込んだ画像データがカレンダーと連携している点も評価されていると話す。
例えば100枚の公文書を画像化した場合、取り込んだデータは端末内のカレンダーに紐付けられるので、取り込んだ後にデータを日付ごとに仕分ける必要がない。後から探すときにも、カレンダーの日付から画像を呼び出せるので、文書を探す手間がかからない。
さらに取り込んだ画像を“検索性のある画像データ”として運用できるのも喜ばれるという。Paper Writerは、取り込んだ画像データに書き込みを加えたり、マーカーで印を付けたりすることが可能で、書き込んだ内容からデータを探せるよう、タグ付けして管理できる。“紙とテキストデータのいいとこ取り”のような形で情報管理できるのが他のタブレットとは異なる点だと中嶋氏は自信を見せる。
「紛失を防ぐことができ、コピーが不要になるので環境にも優しい。法律事務所や税務署など、紙を取り扱う量が多いところで役に立つのではないか」(中嶋氏)
どの企業も最終的なゴールは、紙を廃したフルデジタル化による運用だが、その過程では業務システムの開発や社員教育などが必要となり、そのための手間やコストがかかってしまう。こうした手間やコストが捻出できず、導入に踏み切れないという企業も少なくない中、Paper Writerは、その過渡期の「アナログとデジタルの共存」という手段を提供できるのが強みというわけだ。
ハンディターミナルの開発で培ったノウハウを凝縮
Paper Writerの強みは、紙+αの付加価値があるデータの運用にとどまらない。バッテリーは1日中安心して利用できる大容量タイプのものを採用し、バッテリーが切れた場合でも予備バッテリーと交換できる取り外し式になっている。さらに高温、低温の環境下でも利用でき、落下に対する耐性もある。「これは法人用途を考えると、最低限必須の機能だった」(中嶋氏)
企業目線のリアルなニーズに応えられる端末を開発できたのは、25年間、ハンディーターミナルを提供してきた実績があるからだという。「他のタブレット端末メーカーは、スタート地点がPCだったり、スマートフォンであったりというところがほとんど。見た目もかっこよく、面白い機能がたくさん入っているが、それと“年間を通して日々の激務に耐えうるか”というのは別問題。Paper Writerは、ハンディターミナルベースの技術力や経験値が凝縮された、業務のための端末として開発されている」(中嶋氏)
Paper Writerは、ハンディターミナルの開発を通じて、長年業務の現場を見てきた同社だからこそ開発できたと中嶋氏は胸を張る。業務視点で開発された“全部入り端末”が、iPadの牙城を崩せるかに注目だ。
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