HTML5推進派のFinancial Times、ネイティブアプリに回帰したFacebook、それぞれの思惑は:Open Mobile Summit(2/2 ページ)
ネイティブアプリか、HTML5か、ハイブリッドか――。アプリ開発者たちのあいだで議論が繰り広げられる中、「Open Mobile Summit」の講演に、対照的な2社のキーパーソンが登場した。それぞれのモバイル戦略は、どのようなものなのか。
HTML5のメリットとデメリットについて説明したグリムショー氏は、ベンチャー企業など余力が少ない場合はネイティブアプリ環境を選択すべきかもしれないが、大企業はHTML5を検討しても良いのではないかと提案する。同氏がこう話す背景には、大きな力を持つ大手プラットフォームの台頭でモバイル分野が閉鎖的な方向に向かっていることへのいらだちがある。「ここ数年、モバイル分野が閉鎖的な方向に向かっており、エコシステムが閉鎖されたプラットフォームに独占されている。オープンなWebから遠ざかっているのは問題だ」(グリムショー氏)。Apple、Googleなどがプラットフォームから大きな収益を得ていることを挙げ、「プラットフォームの力が強くなっており、業界が再編されている。われわれはこれから解放されたいと思っている」と述べた。
FTでは、モバイルWebで学んだことなどをコミュニティと共有する「FT Labs」を開始しており、こうした取り組みを通じて、「HTML5の課題や問題を一緒に解決していきたい。他社もHTML5を利用してほしい」と期待を寄せた。
ネイティブアプリで性能改善を狙う――Facebook
Open Mobile Summitでは、Facebookでモバイル担当プロダクトマネージャを務めるミック・ジャクソン(Mick Johnson)氏も、モバイル戦略に関する講演を行った。
Facebookのモバイル戦略といえば思い出されるのが、9月に開催された米TechCrunch主催のカンファレンスで同社CEOのザッカーバーグ氏が放った「HTML5に依存しすぎたことは最大のミスだった」という発言だろう。
実際のところは、このコメントのみが大きく取り上げられたことで誤解された面がある。同氏が率いるFacebookはHTML5に背を向けたわけではなく、The World Wide Web Consortium(W3C)でHTML5/モバイルWebの標準化を推進するための作業グループを立ち上げるなどHTML5に積極的に取り組んでいるからだ。しかし同社は、スマートフォン向けアプリについてはHTML5ベースのものからネイティブアプリへと切り替えを進めている。
FacebookがHTML5からネイティブアプリにシフトした理由と今後の戦略についてジャクソン氏は、「(HTML5は)多くのユーザーにリーチできることからHTML5にフォーカスしてきたが、利用規模の拡大を達成したところで、アプローチを変えることにした。今後は主要なターゲット端末それぞれで何をするべきかにフォーカスしていく」と説明した。
例えば、最初からコードを書き直したというiOS向けのネイティブアプリは、性能重視で開発しており、iOS 6などOS側の新機能も活用していくという。
機種のバリエーションが多く、画面サイズやOSのバージョンなどが端末によってことなるAndroid OS向けアプリについては、「高速で安定したユーザー体験を提供する」ことを重視して開発しているとジャクソン氏。さらにFacebookは高速なモバイルネットワークがまだ普及していない地域向けに、テキスト主流のzero.facebookも用意しているという。これらの全てを合わせると、モバイル端末からのアクセスは月間6億人規模に達し、毎日7000機種以上がFacebookにアクセスしているという。
同社ではさらに、開発からリリースまでのサイクルの短縮化も進めている。継続的に機能を開発しながら、できたものから運用と展開を進め、間に合わなかったものは次に回す――という開発フローを採用しており、その効果についてジャクソン氏は「全体の一貫性と安定性を強化できる」と説明した。
ジャクソン氏はさらに、これまで社内で1つのチームとして作業してたモバイルチームを分散し、他の製品チームの中で作業する形へと変えたことも明かした。これは、社内のモバイル化を進めていくことが狙いで、モバイルチームは同時に、他のチームに対するiOS/Android開発のトレーニングも手がけているという。こうした取り組みを通じて、Facebookを「モバイル部門を持つソフトウェア企業から、モバイルカンパニーに変えていく」とジャクソン氏は意気込んだ。
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