「ゼロシナリオ」を批判する経団連会長、出身母体が原子力事業に関与:法制度・規制
経団連の米倉弘昌会長が産業界を代表する立場で、政府が検討中の2030年に原子力発電の比率をゼロにする「ゼロシナリオ」を厳しく批判している。しかし米倉氏が会長を務める住友化学は原子力関連の事業を定款に入れており、経団連会長としての発言の公平性が問われる。
9月10日の記者会見で、経団連(日本経済団体連合会)の米倉弘昌会長が国の中長期のエネルギー政策に関して以下のように発言した。
多様なエネルギー源を維持し発展させていくことが、経済成長のためにも必要である。「原発比率ゼロ」は現実的でなく、実現困難である。3つの選択肢について客観的、科学的な観点からメリット、デメリットを検証すべきである。同時に、日本再生戦略との整合性の確保や日米同盟関係の維持も重要である。(以上、経団連の発表資料から)
経団連はこれまでも国のエネルギー政策に関して原子力発電を維持する立場をとってきた。国民的議論を展開した3つのシナリオに対しても、7月27日付けの発表資料の中で、原子力発電の比率を20〜25%とする「20〜25シナリオ」を最も高く評価している。
原子力発電の比率を0%にする「ゼロシナリオ」に対しては、将来の経済成長に伴う電力需要の増加を見込んでいない点や、さまざまなコストが増加することなどにより、産業界への悪影響が大きいと批判している。これらの点は経団連以外からも指摘されている課題であり、国全体で解決策を考えなくてはならない重要な問題である。
とはいえ、米倉会長をリーダーとする経団連の主張には、原子力発電に固執する印象をぬぐえない。その理由のひとつとして考えられるのは、経団連が伝統的な大企業を中心とする団体であり、会長のほか18人いる副会長の中には、原子力を事業にしている企業の経営者が含まれていることだ。
実際に米倉氏が会長を務める住友化学においても、会社の定款に原子力関連の事業が記載されている(図1)。同社にとって原子力関連事業の重要性がどの程度かは不明だが、少なくとも事業のひとつに位置付けていることは明確である。そのような状況で経団連会長として「ゼロシナリオ」を批判することは公平とは言いがたい。
経団連会長は日本の産業界を代表するリーダーである。国のエネルギー政策に関して発言するのであれば、この問題に対して公平な立場にある経営者が担うべき役職だろう。そうならないと産業界の本来の意見が国のエネルギー政策に反映されない懸念が生じてくる。
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