ゆるくて厳しい省エネ、新丸ビルの照明でデマンドレスポンスを探る:エネルギー管理
三菱地所は新丸の内ビルディングのテナント企業2社と協同で、照明を対象としたデマンドレスポンス実証事業を開始する。リアルタイム性よりも、テナント企業の従業員の満足度を維持しつつ消費電力を引き下げる手法を探る試みだ。
オフィス街に立ち並ぶ高層ビル。大量に電力を消費するビルの節電はどうすれば実現できるのか。三菱地所は東京駅正面にそびえる新丸の内ビルディング(新丸ビル)で、省エネを目的としたデマンドレスポンスの実証事業を2013年7月から開始する(図1)。東京都が募集した「テナントビルにおけるデマンドレスポンス実証事業」に応じたもの。
今回の実証事業の目的は、電力供給計画に基づいたピークカットではない。リアルタイムに消費電力を制御するものでもない。遠隔制御対象となるのも照明機器だけだ。ビルテナントの省エネニーズを満たしつつ、ビルに対する満足度も下げない、いわば「ゆるい」デマンドレスポンスが可能かどうか、時間をかけて検証するためのものだ。
実証事業の対象となるのは、新丸ビル内でテナントにフロアごと貸し出している階(専用部)4フロア。1フロア当たり約3000m2ある。旭硝子と三菱UFJリースがテナントとして2014年3月まで協力する。
今回の取り組みの特徴は、ビル所有者(三菱地所)とテナントの設備管理者(ファシリティマネジャー)だけではなく、テナントの従業員が協力することだ。ビル所有者とテナントが双方でやりとりしながら、ビル所有者が専用部の照明機器を直接制御する取り組みは三菱地所として今回が初めてだという。
具体的には三菱地所がテナント企業の設備管理者と協議して、照明のメニューを作る。「松竹梅のように、照度を変えた複数のメニューをテナント企業ごとに最初に作る」(三菱地所)。例えば、一般的なオフィスに必要な照度である500〜600lx(ルクス)と、400lx、さらには10時から13時だけは400lxなどさまざまなパターンが考えられる。
テナントの従業員側が1つのメニューを選び、2〜3週間同じメニューを継続する。達成が難しければより穏やかなメニューに変更する、容易であればさらに節電するといったように、省エネパターンを変えていくというものだ。三菱地所の計画は「ゆるい」が厳しい面もある。ビル設備側でメニューに応じて電力量を実際に絞り込んでしまうところだ。メニューで決めた量以上は照明に電力を使うことはできない。テナントの従業員はそれぞれのPCから消費電力やメニューを閲覧できるため、限界が近いのか、余裕があるのか確認できる。
実証事業の内容は3つに分かれる。平時、需給ひっ迫時、災害時だ。以上の説明は平時のもの。需給ひっ迫時にはインセンティブを与えて、さらに節電が可能かどうかを調べる。インセンティブの内容は三菱地所のテナントの商品券や優待チケットだ。災害時の実証は、いわゆる防災訓練と似ている。時間を決めて供給する電力を絞り込んでしまう。テナントの事業継続性を調べることが目的だ。
三菱地所は次世代オフィス開発として新丸ビル10階の「エコッツェリア」や「茅場町グリーンビルディング」でモデル事業を進めてきた。いずれも熱輻射パネルと個別調整可能な空調を組み合わせた「ハイブリッド輻射空調システム」や、個別制御が可能で照度や色温度を変更できる「知的照明システム」を組み込んだ最新のオフィスだ。例えばエコッツェリアでは消費電力量を約30%削減できている。
今回の実証事業はこのような最新機器は使っていない。従業員の感じ方を意見として吸い上げ、従業員のたてた節電計画を着実に実現するという点が新しい。
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