近海に広がる再生可能エネルギー、技術検証と環境影響評価へ:世界に先駆ける洋上プロジェクト(4)(2/2 ページ)
2015年度まで続く福島沖の実証研究では、洋上風力発電の実用化に向けた技術面の検証に加えて、海洋生物に対する影響の評価や、地元の漁業と共存を図ることが重要なテーマになる。再生可能エネルギーで新しい産業を起こしながら、いかに豊かな自然を守るかが問われる。
課題山積の環境影響評価
再生可能エネルギーの中で、環境への影響を最も懸念されているのが風力発電だ。陸上では鳥類の衝突が問題視されていて、計画の中止や変更を迫られるケースが増えている。洋上になると海洋生物が保護の対象に加わり、漁業にも影響を与えかねない。
実際に福島沖で発電所を建設するにあたっては地元の漁業関係者の反対があり、スケジュールが大幅に遅れた経緯がある。特に心配されるのは、風車が発する騒音や電磁波の影響だ。漁業と共存できないことが明らかになった場合には、早急に設備を撤去することが条件になっている。
福島沖のプロジェクトでは環境影響評価の対象として、9種類の動植物、水中騒音、海水や海底の土砂などを調べる(図6)。事前に500ページを超える「環境影響評価準備書」を国に提出して、評価の対象になる動植物の生息状況などを詳細に報告した。この準備書には運転を開始した後の調査・評価方法も記載してあり、その内容に沿った報告が義務づけられている。
漁業との共存は可能か
福島第一原子力発電所から放射能に汚染された水が海に流れ出て、地元の漁業は甚大な被害を受けている。原子力に代わる洋上風力発電所には動植物への影響が懸念される一方で、新たな漁法を生み出す期待が持たれている。浮体式の設備を活用した「海洋牧場」の実現である(図7)。
海洋牧場は浮体式の設備に自動給餌装置などを取り付けて新しい漁場を形成する。発電所の周辺で効率的に魚を育てて捕獲できるようにする狙いだ。深層水をくみ上げて周辺海域を肥沃にすることも検討テーマのひとつになっている。風力で発電して、太陽光で海を豊かにする。再生可能エネルギーが漁業を活性化することも夢物語ではなくなりつつある。
地元の漁業関係者がプロジェクトの終了後にも洋上風力発電所の存続を望む状況になれば、未来の展望が開けてくる。世界が注目する壮大なチャレンジが「FUKUSHIMA」で始まった。
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