水素エネルギーで世界をリードする国家戦略、化石燃料に依存しない社会へ:スマートシティ(3/3 ページ)
将来に向けた日本のエネルギー戦略の中で重要な役割を担う水素・燃料電池のロードマップがまとまった。定置用燃料電池、燃料電池車、水素発電の3つの分野を対象に、2050年までの目標と重点施策を掲げる。国の総力を挙げて、化石燃料にも原子力にも依存しない水素社会の実現を目指す。
水素発電のコストを17円まで下げる
3番目の用途になる水素発電の期待も大きい。水素発電は既存の発電方法をベースにした2種類の実現形態がある。燃料電池を使って水素と空気を反応させて発電する方法のほかに、火力発電と同様の仕組みで水素を燃焼させてガスタービンか蒸気タービンで発電することもできる。
それぞれで一長一短があるが、目標は発電コストを1kWhあたり17円以下に抑えることだ。この発電コストはLNG(液化天然ガス)を使った火力発電の1.5倍で、再生可能エネルギーの平均値とほぼ同等になる。2020年代の後半には、海外から安価な水素を調達することも含めてコストダウンを図る。
まず2020年から工場などの自家発電用に導入を開始して、発電コストが低下する2030年代には電力供給用の水素発電所を展開できるようにする(図5)。さらに注目すべきは、ロードマップの第3フェーズにあたる2040年代に「CO2フリー」の水素供給システムを確立させる。
再生可能エネルギーも水素に転換
CO2フリーの水素を供給する方法は主に2つある。第1に水素の製造過程で発生するCO2をCCS(CO2回収・貯留)の仕組みで回収・貯蔵する。海外から水素を調達する場合には製造国にもCCSを普及させる必要がある。
第2の方法は再生可能エネルギーと組み合わせる。太陽光や風力など天候によって変動する余剰電力を使えば、水を分解して水素を製造することができる。電力から水素ガスに転換する「Power to Gas」の実現だ。そのための技術開発と実証を2040年までに完了させる。このほかにアンモニアを利用して水素を製造する方法なども試みる。
政府は水素と燃料電池の導入量を長期的に拡大して将来のエネルギーを安定確保するのと同時に、関連する産業を新しい市場として開拓することを狙っている。シンクタンクの日本エネルギー経済研究所の予測によると、水素・燃料電池の関連産業は国内だけで2030年に1兆円、2050年には8兆円に拡大する見通しだ(図6)
日本を含めて世界の主要国は現在のところ、大量のCO2を排出する火力発電や放射能汚染のリスクがある原子力発電に頼らざるを得ない。CO2フリーの水素エネルギーは温暖化対策のみならず、地球全体の環境保護を促進する期待がある。日本が水素・燃料電池の分野で世界をリードする意義は大きい。
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