地球上で最も軽い水素、大量に輸送できる液化技術が進化:水素エネルギーの期待と課題(3)(2/2 ページ)
水素は気体の状態では非常に軽いために、製造してから離れた場所まで輸送することが難しい。解決策としては圧縮したり液体に変換したりする方法があるが、長距離を大量に輸送する場合に課題が残る。液体の水素を常温・常圧のまま輸送できる技術の開発が進んで、実用化に近づいてきた。
天然ガスのように水素を供給できる時代へ
有機ハイドライドにはガソリンの主成分でもあるトルエンを使う。トルエンに水素を反応させると、「メチルシクロヘキサン(MCH)」という液体になる。MCHは常温でも安定した状態を保つことができて、トルエンよりも毒性が低く、タンカーで大量に運ぶのに適している。
ガスの産出国で気体の水素とトルエンをMCHに変換して、国内まで輸送してから再びトルエンと水素に分解する。水素を取り出した後のトルエンは産出国に戻せば、再び水素と反応させてMCHを作ることができる。資源を無駄にしない循環型の輸送システムを構築することが可能になる(図4)。
こうした有機ハイドライドの特性を生かして、神奈川県の川崎市で「川崎臨海部水素ネットワーク」を構築する計画が進んでいる。地域内にMCHの貯蔵タンクを配備して水素を供給する仕組みだ。輸送にはタンクローリー車を使うほか、大量の水素を利用する設備にはパイプラインを敷設して直接送り込む。
水素ネットワークを使って大量の水素を地域内の発電所や工場、さらには燃料電池自動車用の水素ステーションや燃料電池を設置したオフィスビルなどに供給する計画である。早ければ2015年にも水素ネットワークの構築に着手して、水素の利用拡大に合わせて供給範囲を広げていく(図5)。
地域に展開する水素ネットワークでは福岡県の北九州市が先行していて、2011年から「北九州水素タウン」の実証研究プロジェクトを続けている。新日鉄住金の八幡製鉄所で副生ガスから作った水素を利用する。製鉄所から地域内の主要な設備まで、公道の地下1メートルに埋設したパイプラインで水素を供給できるようになっている(図6)。
このプロジェクトを通じてパイプラインの耐久性を検証するほか、集合住宅や施設に設置した燃料電池の有用性、さらには燃料電池を搭載した自転車と水素ステーションの利用状況などを評価する予定だ。2015年度まで実証研究を続けながら、CO2排出量の少ない水素社会システムの実用化を目指す。
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