燃料電池のコスト低下へ、白金を使わない炭素系の触媒を開発:蓄電・発電機器
化学メーカーの帝人が燃料電池のコストを低減する新しい触媒を開発した。炭素繊維の原料に鉄を加えた「カーボンアロイ」の1種で、燃料電池の化学反応に欠かせない触媒になる。家庭用や自動車用の燃料電池に使われる高価な白金に代わる低コストの触媒として実用化を目指す。
帝人が開発した「カーボンアロイ触媒」は、炭素繊維の原料になる「ポリアクリルニトリル」に鉄を添加して作る(図1)。ポリアクリルニトリルはアクリル繊維の主成分で、製造コストが安くて調達も簡単なことが特徴だ。現状では発電性能などの点で実用化のレベルに達していないが、将来の燃料電池のコスト削減をもたらす有力な素材として期待がかかる。
燃料電池は化学反応によって電流を生じる「電解質」を使って、水素と酸素から水と電気を作る発電装置だ。現在の主流は電解質に固体高分子膜を利用する「固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)」とセラミックを利用する「固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)」の2種類がある(図2)。いずれの方式でも化学反応を促進するための触媒が必要になる。
作動温度が700度以上になるSOFCでは安価なニッケルを触媒に使えるのに対して、70〜90度と低い作動温度のPEFCでは高価な白金を触媒に使って化学反応を加速させる必要がある。家庭用や自動車用の燃料電池には低温で取り扱いが簡単なPEFCが向いているが、白金を使うために高コストになる点が大きな課題だ。
自動車用の燃料電池の場合には、1台で50〜100グラムの白金が必要になる。工業用の白金の価格は1グラムあたり5000円前後が現在の相場で、燃料電池の触媒で1台あたり25万〜50万円のコストがかかってしまう。安価なカーボンアロイ触媒を利用できれば、家庭用や自動車用の燃料電池の価格低下につながる。
帝人はカーボンアロイ触媒の粒子を微細化することによって、非白金系の触媒としては世界最高レベルの発電性能を発揮することを確認した。ただし実用レベルの燃料電池に使うためには、さらに発電性能や耐久性の改善が必要である。今後もカーボンアロイ触媒の改良を続けて、2025年までに実用化する計画だ。
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