余剰電力で水素ガスを作る「Power to Gas」:キーワード解説
再生可能エネルギーが急速に拡大して、地域によっては電力が余ってしまう可能性が出てきた。そこで注目を集めるのが、余剰電力を使って水から水素ガスを作る「Power to Gas」だ。CO2フリーの水素を大量に製造することが可能で、燃料に利用すれば再び電力に転換することもできる。
「電力は貯められない」というのは昔の話である。今では蓄電池を使って、昼間に余った電力を夜間に利用することができる。電力会社では高低差のある2つのダムを組み合わせた「揚水発電」を利用して、余剰電力を水力エネルギーに変えて貯めておける。それでも電力が余ってしまう、だから再生可能エネルギーを急に増やさないでほしい、と電力会社は主張する。
ならば水素がある。余った電力を使って水を電気分解すれば、水素ガスと酸素ガスを発生させることが可能だ。電力(パワー)からガスを作るので、欧米では「Power to Gas」と呼ぶ。電力を貯める新しい方法として、ドイツをはじめ先進国で研究開発が活発になってきた。
日本でも2012年にトヨタ自動車などが「HyGrid研究会」を設立して、再生可能エネルギーと水素を活用したエネルギー供給システムの研究を開始している。この研究会が目指す「HyGrid」は水素と電力を相互に変換しながら、CO2フリーのエネルギーを供給する(図1)。まさにPower to Gasを実現するシステムである。
さらに具体的な取り組みが神奈川県の川崎市で2015年4月から始まろうとしている。東京湾岸にある公共施設に太陽光と水素を組み合わせたエネルギー供給システムを導入する計画だ。太陽光で発電した電力を使って水を電気分解して、発生した水素をタンクに貯蔵して再利用することができる(図2)。
このシステムには燃料電池と蓄電池も組み込まれていて、必要に応じて電力と温水を供給することが可能だ。わずか25kWの太陽光発電システムを電源にして、300人分の電力と温水を供給し続けることができる。発電量が天候に左右される再生可能エネルギーでも、水素に転換すれば安定した電源になる。
現在のところ水素を製造する技術は7通りある(図3)。すでに商用化が進んでいるのは天然ガスなどの化石燃料を改質して水素を取り出す方法で、家庭用の燃料電池である「エネファーム」が代表的な例だ。これと比べて再生可能エネルギーから水素を製造する方法はコストが最大の課題になっている。
太陽光をはじめ再生可能エネルギーの発電コストは通常の火力発電よりも高く、さらに電力から水素を作るためのコストがかかる。資源エネルギー庁の試算によると、化石燃料を改質する方法と比べて水素の製造コストが2〜3倍になるのが現状だ。
今後は再生可能エネルギーの拡大に伴って発電コストが低下して、同時に水を電気分解する装置のコストダウンも進んでいく。再生可能エネルギーが大量に余っても、水素に変換して燃料電池車を走らせれば、CO2フリーの社会が広がる。Power to Gasは国を挙げて推進すべき最重要の新技術である。
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